The Linux Foundation CTO Theodore Ts'o氏
The Linux Foundation CTO Theodore Ts'o氏
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 1年に1度行われるLinuxカーネル開発者の祭典Kernel Summit。Linus Torvalds氏を始めとするカーネル開発者が集う会議が,2009年は10月18日から20日にかけて東京の秋葉原で開催される。Kernel Summitは招待制であり,招かれた70数名のカーネル開発者が開発の方向性や運営について議論する。

 このKernel Summitを2001年に始めたのがLinuxファイル・システムのメンテナであり,現在The Linux Foundation CTOであるTheodore Ts'o氏である。「Linuxは遠く離れた場所にいる技術者たちの協力により開発されている。電子メールではフェイス・トゥ・フェイスの議論が持つニュアンスが伝わらない。メールではなかなか決まらないことが,顔を合わせるとすぐに決まることもある」---このような思いから,Ts'o氏は開発者に呼びかけKernel Summitを開催したという。

2001年の第1回Kernel Summitを組織

 Ts'o氏は1991年9月,カーネルのバージョンがまだ0.09だった頃にLinuxの開発に参加した。ほどなく,北米で最初のLinuxを配布するFTPサーバーを運営。「(Torvalds氏がいた)フィンランドと北米の回線は当時64kbpsしかなかったので,FTPサーバーを立てた。僕がいたMIT(マサチューセッツ工科大学)は回線状況がよかったからね。サーバー・マシンは僕の机の上のワークステーションだった」とTs'o氏は振り返る。

 「やがてLinuxは大企業に“発見”され,多くの開発者がフルタイムでLinuxカーネルの開発に関わるようになった。メールによる議論だけでは十分でなくなり,開発者が集まる機会が必要になった」(Ts'o氏)。

 最初のKernel Summitは2001年,サンノゼで行われた。2002年から2006年まではカナダのオタワで開催され,2007年はイギリスのケンブリッジ,2008年はポートランドが会場となった。2002年から2006年までは,UNIXなどのOSの研究者や開発者の団体Usenixが会場などロジスティック面での支援を行った。2007年からはThe Linux Foundationが支援を担当。Ts'o氏は2008年12月にThe Linux Foundation CTOに就任した。

 2009年東京で行われるサミットは,アジアで初めてのKernel Summitとなる。「できれば,企業の開発者だけでなく,趣味で開発しているアマチュアのカーネル・ハッカーにも出席してほしい」と,現在Kernel Summitプログラム委員長の職にあるTs'o氏は言う。「日本からだけでなく,韓国や中国,アジアのカーネル開発者に参加してもらいたい」(Ts'o氏)。

完全招待制,出席者選定のプロセス

 Kernel Summitへの招待者は以下のようなプロセスで選ばれる。まずLinuxのソースコードの解析により,その署名の中から最初の候補者リストが作成される。また誰でも候補者を推薦することができる。この中からプログラム委員の投票により招待者が決定される。これに加え,Summitのゴールド・スポンサーとプラチナ・スポンサーは1~2名を出席させることができる。またメンテナのリストから5人が選ばれ,これによりデバイス・ドライバの作者なども出席する機会を得ることができる。エンドユーザー(データベースやプロセッサのベンダー)のパネルもあり,カーネル開発者と意見交換を行う。

Linux 3.0が2008年の議題に

 Kernel Summitでは,あらかじめメーリングリストで提案され選ばれた様々な話題が議論される。2008年は,「Linux 3.0」,「ドライバはどのようなタイミングでマージされるべきか」,「ファイルシステムとブロックレイヤーのインタラクション」,「initrdの標準化」,「カーネルの品質とリリース・プロセス」など十数件のトピックが話し合われた。

 「Linux 3.0」は,著名なカーネルのメンテナであるAlan Cox氏が提案したもので,「Linux 3.0という新しいバージョンを作り,古いレガシーなデバイス・ドライバやシステム・コールを削除してはどうか」というアイデアだ。議論のあと,Torvalds氏が「我々は1991年からのバイナリが最新のカーネルの上で動くことを誇りに思わなければならない」と強く反対する意向を示したことで,Linux 3.0の新設は見送りとなったという。

“みんなのための仕事”を始めよう

 「ボランティア活動を始めよう!」---Kernel Summitに招待される方法を,Ts'o氏はこう語る。「パッチをレビューし,Linuxカーネルのバグを修正し,サブシステムのメンテナになろう」。勤務先のためだけでなく,みんなのための仕事もしてみよう。勤務中にオープンソースへの貢献活動を行うことを許している企業もたくさんある。「Linuxカーネル開発へ参加すべき時が来た。日本の開発者にこのメッセージを送りたい」(Ts'o氏)。