株式会社アイ・エム・ジェイ 執行役員
Webマーケティングコンサルタント
「大工と話すときは,大工の言葉を使え」――。この言葉をご存じの方も多いと思います。この言葉は,かの有名なソクラテスの言葉です。しかし,そもそも,大工でない人が大工と話すときに大工の言葉を使うこと自体無理な話です。ソクラテスのこの言葉の真意は,コミュニケーションの難しさを表したものでしょう。
無意識のフィルターを通して情報を取得している
「言ったはずなのに…」,「なんでこれがわからないのか!」。ふと,そんな思いが頭の中をよぎった経験は誰にでもあると思います。私たちは確かに,言葉や文字によって情報を伝達し合っています。しかし,その情報伝達によって,共通認識が築かれているわけではありません。言えば伝わる,伝われば共通認識できる,ということは錯覚に過ぎないのです。
もちろん,私もその錯覚の中で生きている一人です。相互の伝達を妨げるものとして,代表的に挙げられるのが,
- 先入観(思い込み)
- 習 慣(自分の当たり前)
- 価値観(物事を判断する軸)
重要なのは,“お互いの違いを意識する”こと
プロデューサー,ディレクター,デザイナーなどメディアの構築には,複数のさまざまな役者が登場することは前回触れた通りです。役目の異なる人間が複数集れば,意思の疎通の困難の度は高くなります。
加えて,立場や階層ごとに,使う知識も,ものの見方も違って当然です。プロジェクトに関わるメンバーの頭をLANで接続することができたらどんなに便利かと思いますが,大工と話すときに,大工の言葉を使う人はほとんどいません。そもそも,人は,それぞれの言語で情報を取り扱っていて,共通言語,つまり,人間のコミュニケーションにプロトコルはないのです。
それを解消する特効薬のようなものはもちろんありませんが,重要なことは,“お互いの違いを意識する”ということです。「思想,意見,情報を伝達しあい,心を通じ合わせるプロセス」がコミュニケーションです。前述した,“違いを意識すること”を具体的な行為に変換するならば,“聞くこと”といえます。そんな簡単なこと?・・・。人の脳は,期待していないものを知覚することに抵抗するように,また,期待しているものを知覚できないことに抵抗するようにプログラムされています。
こんな時にはこうしよう
例えば,相手の言っていることがいまひとつつかめない時―。「何を言っているのかわからない!」と言ってしまえばそれまでです。しかし,お互いの違いを意識することで,「もう一度,わかるように教えてもらっていいですか?」と言えば,伝達内容と取得情報の量が多くなり,理解にいたる可能性がぐんと高まることでしょう。
コミュニケーションは「行為」ではなく「知覚」です。情報の行き来という行為ではなく,事象に対する知覚です。知覚とは,「事象を認識するプロセス」です。メディアが急速に大きく変わろうとしているいま,プロジェクトを推進していくうえで,コミュニケーションの翻訳家としての役割が今後,よりいっそう求められるでしょう。