清原 聖子/情報通信総合研究所 グローバル研究グループ 研究員

2009年1月20日,米国で民主党のバラク・オバマ氏が第44代合衆国大統領に就任し,新政権が発足した。閣僚やスタッフも刷新され,情報通信関連政策も共和党のブッシュ政権時代とは様変わりしそうだ。第1回はオバマ新政権の基本政策を人脈を基に紐解く。

(日経コミュニケーション編集部)

 2008年米国大統領選挙戦は,ネットによる戦略が功を奏し,選挙資金力で優位に立った民主党のバラク・オバマ上院議員が,共和党のジョン・マケイン上院議員に圧勝する形で幕を閉じた。その後,現オバマ大統領は,政権交代のための準備機関として「政権移行チーム」を発足し,閣僚人事に取り組んだ。

 通信政策にかかわるポストは,規制機関の連邦通信委員会(FCC)委員長のほか,新たに設置予定の全米チーフ・テクノロジー・オフィサ(CTO),大統領の情報通信政策諮問機関である商務省全国電気通信情報庁(NTIA)長官などがある。

IT業界が寄付・献金で貢献

 2008年選挙期間中の選挙資金源から振り返ろう。オバマ候補(当時)は選挙資金の約9割を小口の個人献金から得たことで知られている。しかし,業界別や高額寄付者リストを比較すると,マケイン候補(当時)との違いが改めて鮮明に浮かび上がる。

 オバマ候補の場合,教育,テレビ/映画/音楽業界やIT業界からの献金額が多いのに対し,マケイン候補の場合,不動産,金融,保険,石油業界からの献金額が多かった。また,高額寄付者は,オバマ候補の場合,マイクロソフトやグーグルなど,インターネット利用の公平性を保証する「ネットワーク中立性」の法制化を支持する企業が上位に名前を連ねている。一方,マケイン候補の場合は,ネットワーク中立性の法制化に反対しているAT&Tが上位にランクインした(図1)。

図1●民主党のオバマ大統領およびオバマ氏と大統領選を争った共和党のマケイン上院議員の選挙献金寄付者<br>2008年選挙期間中の数字をopensecrets.orgが公表したもの。連邦選挙委員会が10月27日に発表したデータに基づく。
図1●民主党のオバマ大統領およびオバマ氏と大統領選を争った共和党のマケイン上院議員の選挙献金寄付者
2008年選挙期間中の数字をopensecrets.orgが公表したもの。連邦選挙委員会が10月27日に発表したデータに基づく。
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 米国におけるネットワーク中立性は,通信事業者が情報流通の方式や量によって帯域制御/ブロックすることを,新たな法律あるいはFCC規制で禁止すべきかどうかという観点から議論されている。「コンテンツ/アプリケーション事業者」対「ネットワーク所有事業者」の対立にとどまらず,政府のブロードバンド市場に対する介入の適否を巡り,党派的対立へと発展。この対立が献金寄付者の違いとなって表れた。

 政権移行チームが2008年12月1日に発表したリストによれば,11月4日から15日までに,計117万米ドル(約1億1100万円)の寄付が同チームに寄せられた。政権移行チームは,企業や労働組合などからの大口献金を受け付けない。寄付の多くは選挙期間中と同様に,25米ドルから100米ドルの少額の個人献金である。その中で,最高額(5000米ドル=約47万円)を寄付した人物には,ワーナー・ミュージック・グループのエドガー・ブロンフマン・ジュニア会長兼CEOやグーグルのエリック・シュミットCEOがいる。

中立性は“復興”とFCC委員長が鍵

 オバマ大統領は,選挙運動中からネットワーク中立性の支持を明らかにしてきた。政権移行チームの政策綱領においても,「インターネット上のオープンな競争から得られる便益を保護するため,ネットワーク中立性の原則を強く支持する」ことをテクノロジー政策目標のトップに掲げている(図2)。

図2●オバマ政権が掲げる情報通信分野の優先課題<br>出典:<a href="http://www.change.gov/agenda/technology_agenda/" target="_blank">オバマ/バイデン次期政権のテクノロジー政策綱領</a>
図2●オバマ政権が掲げる情報通信分野の優先課題
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