じぶん銀行のCIO(最高情報責任者)である池舘雅博執行役員システム本部長

 じぶん銀行(東京・港区)はKDDIと三菱東京UFJ銀行が折半出資し、2008年7月にサービスを開始したばかりのネット専業銀行である。携帯電話との連携が特徴で、携帯電話番号を使って振り込みができるなど独自のサービスを展開。2008年末までに34万口座を獲得し、順調に顧客基盤を拡大している。

 CIO(最高情報責任者)に当たる執行役員システム本部長の池舘雅博氏は「今までにない銀行を作りたかったが、やりたいことが山ほどあり過ぎた。できることを素早く実行することが重要だった」と話す。

 池舘氏は、新銀行のプロジェクトが始まって1年弱が経過した2007年1月に着任した。このころ、携帯電話を軸にしたサービス内容はほぼ固まっていたものの、システム開発プロジェクトは迷走気味だったという。新サービスのアイデアが多過ぎて優先順位付けが不十分な状況だった。

 そこで、池舘氏がまず着手したのは機能の絞り込みだった。カードローンやクレジットカードなどのシステム開発を後回しにし、2008年7月の開業時は普通預金や振り込みなど最小限の機能でスタートした。

 ただし、携帯電話向けのユーザーインターフェース開発にはこだわり、「2クリックで目的にたどり着ける」など既存のネット銀行にはない軽快な操作を実現した。「ほかの銀行の携帯電話サイトはパソコン用ネットバンキングの付録にすぎない。携帯での利便性追求が差異化につながる」と考えたからだ。

 池舘氏はじぶん銀行の親会社である三菱東京UFJ銀行出身。前身の旧三和銀行時代からほぼ一貫してシステム部門でオンラインシステム開発やシステム統合などに関わってきた。かつての銀行システムとの比較では、「既存のシステムに左右されず、パッケージ・ソフトを使って新規にシステムを構築できるので開発生産性は高い。一方で、外部からの攻撃を前提にしなければならず、セキュリティーには気をつかう」と話す。都銀で培ったプロジェクトマネジメントのノウハウを、携帯電話向け銀行という未知の領域で生かそうとしている。

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・システムに関する話は難解になりがちです。「正確に漏れなく伝える」ことよりは、多少厳密さに欠けても、「分かりやすくポイントだけを伝える」ことに徹しています

・聞かれた時に答えるだけではなく、システム部門だからこそ分かる情報は能動的に発信するようにしています。例えば、じぶん銀行では一般的な銀行以上に昼の12時台と15時台にアクセスが集中する傾向などを社内に情報発信しています

・中井雅人代表取締役社長は私と同じ三菱東京UFJ銀行出身です。以前はITを活用した新規事業開発などを担当していたためITには理解があり、コミュニケーションはスムーズです

◆ITベンダーに対して強く要望したいこと、IT業界への不満など
・プロジェクトマネジメントをしっかりやってほしいと思います。企業によってプロジェクトマネジメント力にはかなりのばらつきがあると感じます。何らかの資格や基準があればいいのですが、実情としては、我々が見極めるしかありません

◆普段読んでいる新聞・雑誌
・日本経済新聞、朝日新聞、ニッキン(日本金融通信社の金融業界紙)
・日経情報ストラテジー、日経コンピュータ
・FIT(日本金融通信社の金融・IT情報誌)、週刊金融財政事情

◆最近読んだお薦めの本
・『あなたはなぜ値札にダマされるのか?』(オリ・ブラフマン、ロム・ブラフマン著、日本放送出版協会)
人間は必ずしも合理的な行動を取らないという「行動経済学」について書かれた本。最近、心理学に興味を持っています。じぶん銀行のサービス内容にも生かせる部分があると考えています

・『朝令暮改の発想―仕事の壁を突破する95の直言』(鈴木敏文著、新潮社)

・『人生の質を高める時間術』(野村正樹著、日本放送出版協会)

◆仕事に役立つお勧めのインターネットサイト
・ITproはよく見ます。「USBウイルス」などセキュリティーの最新動向は注視しています

・マネー系の比較サイト・口コミ情報サイトもよく見ます。当社は店舗がないだけに、コールセンターに寄せられる意見に加えて、ネット上の評判も顧客の声として重要だと考えています

◆情報収集のために参加している勉強会やセミナー、学会など
・ITベンダーなどが開く技術系・経営系のセミナーには時間のある限り行くようにしています

◆ストレス解消法
・ハイキングや旅行など、外に出て自然と触れ合うのが好きです。普段の仕事で体を動かすことがあまりないので、できるだけ外で体を動かすようにしています

・家族と野球やテニスを楽しんでいます

・システムはやはり生き物なので、日々いろいろなことが起き、休日に呼び出されるようなこともあります。何が起きても前向きに明るく考え、ストレスをためないことも心掛けています