韓国の電子政府の取り組み成果において、そのメリットを国民が最も肌で感じられたのは、インターネットを活用した事務手続き「電子民願(G4C)サービス」だろう。官公庁に直接足を運ばなくてもインターネットに接続できる環境さえあれば、国内外どこにいても、各種事務手続きを完結できる。韓国では、4900種の事務手続きの情報をインターネット上で調べることができ、593種の手続きを電子的に依頼できる。38種の書類については、家庭やオフィスのプリンターを使って直接発給できる。

サービス拡大だけでなく、法整備、画面設計も計画的に進める

 韓国政府の情報ポータルサイト「電子民願(G4C)サービス」では、2007年現在、オンラインで5500余種の行政サービスに対応している。インターネットへの接続環境があれば、家庭やオフィスでサービス内容の案内から、申し込み、プリンターを使った印刷(発給)まで処理を終えられる。

 ただ、現状のような利便性の高いサービスが一挙に実現したわけではない。G4Cサービスのための共通基盤支援サービスの提供、多くの行政機関への水平展開を通じた行政業務における生産性向上など、課題も多かった。数年前までは電子政府ポータルとしての機能や提供されるサービス数に限りがあり、サービスレベルも見劣りした。利用者の視点で設計されたサービスを提供してほしい、処理できる事務手続きの数を増やしてほしい、という要望は絶えなかった。

 インターネット民願サービス高度化事業は、「自宅でも申請や届出、陳情が行える」などの、国民がメリットを実感できるサービスの種類と機能の拡大を目指して推進された。サービス種類は、サービス案内(4400種→5300種)、申し込み(430種→650種)、発給(8種→33種)それぞれについて目標値が定められた。

 インターネットを活用した事務手続きサービスの高度化事業は、「G4Cポータル」の構築から始まった。行政自治部は2000年11月から翌年年5月にかけて、行政サービス改革のための業務の再設計と情報化戦略計画(BPR/ISP)を立ち上げた。対象となったのは、住民、不動産、自動車、企業、税金という5つの分野における、計800余りの事務手続きである。この事業計画をベースに、2001年11月から翌年11月までの1年間に、G4Cポータルが構築された。この間、6つの法律と6つの施行令、13の施行規則など、関連法制度が整備されている。電子政府ロードマップに法整備が含まれており、電子申請をやりやすいように法整備を進めながら推進したのである。

 2003年以降の盧武鉉政権下では、G4C高度化事業が推進された。2003年9月から、11カ月をかけて、業務再設計と情報化戦略計画(BPR/ISP)が推進された。インターネットを活用した事務手続きにおけるサービス対象の拡大と、複数部署を連携した複合的な手続き(出生届、自動車登録、住所移転、住宅取得など7種)の一括処理も推進された。

 インターネット経由でのサービスの種類を増やすだけでなく、オンライン申請画面の使い勝手についても、ユーザー・インタフェースの専門家が設計段階から参加して人間工学的に設計している。カラーなども専門知識を持つデザイナーが選ぶ。電子申請というプログラムを一本つくって他の申請にも満遍なく使えるようなものにするという考え方は採用していない。

表1●インターネット民願サービスの概要(2006年12月現在)
サービス分野 サービス内容
民願案内 ・法廷民願事務に対する説明、処理手続き、所管部処、関連法制度などに対する案内(4900余種類)
民願申請 ・インターネットによる民願申請サービス(593種類)
民願発給 ・申請結果物をインターネットで出力するサービス(38種類)
どこでも民願 ・インターネット、訪問、電話などを通じて民願書類を申請し、希望する場所で結果物を受領するサービス
付加サービス ・住民登録真偽確認サービス
・印鑑証明発給事実確認
・インターネット発給文書真偽確認
資料:政府革新地方分権委員会著「参与政府の電子政府(2006)」をもとに筆者作成

進むチャネルの多様化、民間のポータルサイトとも連携

 2004年12月から翌年9月までに進められたG4Cポータルのサービス対象拡大と、第1次高度化事業の期間を経て、当初425種だったインターネット事務手続きの種類は499種に増えた。18種だった発給手続きは20種へ拡がり、行政情報の共同利用対象情報も20種から24種へ増加している。携帯電話やPDA(携帯情報端末)といったモバイル機器をサービスの窓口として利用できるようになり、チャネル(国民がシステムを利用する際の接点)の多様化が進んだ。

 2005年12月からは、G4Cポータルの拡充および第2次となる高度化事業が始まった。第2次事業を終えた時点で、499種だったオンライン事務手続きの種類は593種に増加した。インターネット経由での書類発給の対象も20種から29種に拡大した。また、国民がインターネットを利用できない状況下でも、電話相談によって、利便性の高いサービスを行政側が提供できるように、自動回答システム(ARS)、ヘルプデスク(Help-Desk)支援システムなどが用意され、手続きを行う国民のニーズに応えた。ヘルプデスク支援システムは、後での意見の食い違いを防ぐために、相談時の音声録音機能を備えている。

 民間のインターネットポータルサイトでもG4Cサービスを利用することができるようになって、ネチズン(インターネットを使い慣れた国民)の支持を集めた。行政自治部は2006年7月に、EMPAS、NAVER、YAHOO-KOREA、CHOLIANなど4つのポータルサイトでG4Cサービスを提供。次いで、NATE、PARAN、DREAMWIZ、KOREA.COMなど5つのポータルサイトでも追加提供を発表した。

 民間ポータルサイトとの提携により、国内の主要ポータルサイトの検索ウィンドウに「住民登録謄本」や「土地台帳」といった事務手続きの用語を入力・検索すれば、G4Cポータルサイトが上位に現れる。国民は自分が知りたいと思う、G4CサービスのホームページのURLをあいまいにしか記憶していなくても、必要な情報にたどり着き、各種事務手続きの申し込みができるようになった。

 行政自治部は、提携ポータルサイトを増やすと同時に、提携サイトにおける、提供に一部制約のあった事務手続きサービスも順次、利用可能にしていった。事務手続きに関する4900余種類を毎週提携サイトに提供するなど、コンテンツの拡充と、技術的サポートの拡充を図った。さらに、例えば住民票申請等は、国のG4Cと各自治体(230個)のホームページ、そして民間のポータルサイトに加え、大手銀行の本店、支店からも申請、発行ができる。

 行政自治部の関係者によれば、G4Cサイトにアクセスする利用者の15.7%が、NAVERとEMPASなどの民間のポータルサイトを経由して接続しているという。提携ポータルサイトの増加とともに、提供する事務手続きの範囲が拡大し、G4Cポータルの利用率がさらに高くなることに期待している。

 一方、行政自治部は、ソウル江南区の協力を得て、税金納付と保健診療申し込みといった各種事務手続きを、同地域のケーブルテレビを活用した双方向通信によって処理する、テレビ基盤の電子政府サービス(T-Gov)モデル事業を実施した。