アビームコンサルティング
製造・流通統括事業部 執行役員 プリンシパル
IFRS Initiative リーダー 公認会計士
藤田 和弘

 2000年に連結会計基準など新たな会計基準が導入された際,「会計ビッグバン」と言われました。当時その影響の大きさから,対応に苦労した経験をお持ちの方も多いはずです。

 会計制度の変化は,会計ビッグバン以降も続いています。退職給付会計,減損会計,金融商品会計,四半期決算の導入,そしてこの数年は内部統制監査,いわゆるJ-SOX(日本版SOX法)対応が大きなテーマをなっています。J-SOXへの取り組みには,これまで会計の分野,特に会計監査と接点がなかった方でさえも,多くの時間と労力を費やしています。

 ここにもう一つ,会計上の大きな変化が到来しようとしています。それが「国際会計基準(IFRS)」です。

 IFRSに対する注目度合いは日増しに高まっています。会計・経理業務に日ごろ携わっている人でなくても,新聞や雑誌の記事を通じて,グローバル・スタンダードの新たな波がまた一つ押し寄せていると実感し始めているのではないでしょうか。

 こんなことを言うと,「会計関連の基準や規則の変更がまだ続くのか。今度はどんな対応をすれば良いのか」「また時間とコストをかけて,いったいどんなメリットがあるのか」といった,疑問がきっと出てくるでしょう。

 この連載では,会計や経理の専門家というよりも,現場で業務を担当している方に向けて,IFRSの概要に加えて,そもそも会計基準とは何か,なぜ国際的な会計基準が必要なのか,情報システムへの影響などを,できるだけ平易に解説したいと思います。

 会計制度の変化に臨むにはまず,その背景を大まかにでも知っておくことが不可欠です。そうしないと,「今度,会計基準が変わったのでこれまでのやり方を変えてほしい」「追加でこれだけの情報をいつまでに提出してほしい」といった突然の要求に対して,意義も理由も理解せずに対応することの繰り返しになってしまいます。この連載で上記の疑問に少しでも答えることができればと考えています。

 今回は第1回なので,そもそも会計基準とは何か,そしてなぜ国際的に通用する会計基準が必要かを解説します。

 ちなみに,IFRSの訳語としては「国際財務報告基準」「国際会計基準」などがあり,本来,前者のほうが正しい訳語といえます。より正確に言えば,IFRS(International Financial Reporting Standard)は「国際財務報告基準書」で,IFRSs(International Financial Reporting Standards)が「国際財務報告基準」です。IFRSsは,IFRSsの前身に当たるIAS(Intrenational Accounting Standards:これが本来の「国際会計基準」に当たります),IFRS,さらに解釈指針書などを合わせた基準の総称を指します。

 話がややこしくなり,現状では金融庁の文書を含めてIFRSを国際会計基準と呼ぶ場合が多いことから,この連載でもIFRS=国際会計基準として話を進めていきます。

会計基準は企業の財政状態を伝える「ものさし」

 そもそも会計基準とは何でしょうか。一口に言えば,「企業が活動した結果を数字(金額)で分かるようにするための尺度」となるでしょう。役割としては,株主・投資家や債権者,取引先をはじめとするステークホルダー(利害関係者)に対して,企業の財政状態を正しく伝えるための「ものさし」,あるいは企業の実態を映し出す「鏡」であるとよく言われます(図1)。

図1●会計基準は企業の実態を映し出す「鏡」!?
図1●会計基準は企業の実態を映し出す「鏡」!?

 企業がこの尺度を継続的に適用していれば,その会社の業績を時系列で比較できます。もしも,その尺度が1社だけでなく,共通のものとして広く使われていれば,会社間の業績を比較することが格段に容易になります。一方で,同じ会社の同じ期間の業績であっても,適用する尺度すなわち会計基準が異なると,結果が全く異なることが起こりうるのです。