デジタル放送技術を利用して,例えば不特定多数に向けた放送サービスを提供しながら,特定の電子看板を対象に広告(デジタルサイネージ)を提供できるようにする──。こうしたニーズに対応する目的で,電波利用の区分の柔軟化に向けた提案を,情報通信審議会 情報通信政策部会の「通信・放送の総合的な法体系に関する検討委員会」の第12回会合(2009年1月30日開催)で,検討委員会の事務局を務める総務省が行った。

 現在,無線局の免許状には「目的」と「種別」が記載されている。例えば,「標準テレビジョン放送」と「放送局」,「電気通信業務用」と「基地局」といった具合である。また無線局の免許を取得したあとは,目的や種別を原則として変更できない。事務局の提案は,一定のルールの下に,この原則を柔軟化しようというものである。これによって,例えば冒頭のような事例だけではなく,「同一の人工衛星で電気通信業務と放送の双方を提供する」などのニーズに応えようという考えである。

 柔軟化の中身は大きく二つある。具体的には(1)無線局開設時に従来の区分を超えるような無線局の申請を認める,(2)無線局を開設した後の変更を可能にする,である。ルールとしては,いずれのケースでもまず「RR(ITUの無線通信規則)による国際的な周波数分配の範囲内であること」を大前提としている。ただし周波数により状況は異なるが,例えば放送用で利用するUHF帯は放送業務以外に固定業務や移動業務にも利用できるものとして分配されている。つまり,区分の柔軟化で幅広い分野で利用できるという道が広がるのである。

 その上で,例えば無線局開設時のルールとしては,「電波の公平かつ能率的な利用の確保につながるものであること」を挙げる。例えば,携帯電話用を本来の目的として周波数が割り当てられた場合に,それをおろそかにして別のサービスばかりに周波数が利用されるということは避けるべきという。開設後のルールとしては,例えば「比較審査の結果として与えられた無線局の免許の目的を変更する場合に,競願者との間の公平性を考慮する必要がある」としている。

 こうした変更に向けた留意事項としては,電波利用区分をメルクマークとして,異なる規律が適用されていることを挙げる。「外資規制」,「開設の根本的基準」,「放送用周波数使用計画の適用の有無」,「技術基準」,「電波利用料」である。例えば外資規制の対象外である「電気通信業務用」と,対象となる「放送用」の双方を目的とした無線局の免許人について,免許を取得した後に外資規制の上限を超えた場合の扱いなどを整理する必要があるという。