3Kと呼ばれることも多いITエンジニアを取り巻く環境は厳しい。それは管理職でも同じことである。100年の一度の不況とも言われる現在も,IT業界における人材の流動化は止まらない。すぐに辞める若者がいる一方,腕に覚えのある人材が続々中途入社してくる。せっかく慣れたと思ったメンバーが去り,自分のよく理解できない技術背景や文化を持つメンバーがやってくる。

 技術の進歩や変化は相変わらず続いている。毎日,聞きなれない言葉が顧客やメンバーの口からあふれてくる。キャッチアップは必要だと気がついているのだが,もはや技術についていける気がしない。メンバーとの間に距離と疎外感すら感じる――。

 これが,当世のIT業界の管理職(=IT管理職)のおかれている状況だ。

 そして,このような状況にいるからこそ,コミュニケーションによって,メンバーが持つ能力を引き出し,さらに向上させる手立てが求められている。IT業界に求められる管理職の仕事は,メンバーを「監視し,働かせる」ことではない。彼らの考えていることをキャッチアップし,自立的な行動を促し,それを仕事の成果に結びつけられるよう導くことである。

 当連載の狙いは,メンバーとのコミュニケーションや人材育成に頭を悩ましているIT管理職の人たちに役立ち,しかもすぐに始められるテクニックやツールを紹介することだ。連載初回となる今回は,個々のテクニックの説明に入る前に,IT管理職に求められているコミュニケーションの全体像を説明する。

3つのコミュニケーションで一歩踏み込む

 もともと管理職には調整役としてのコミュニケーション・スキルが求められる。だが,昨今のIT管理職に必要なのは,さらに一歩踏み込んだコミュニケーション・スキルである。具体的には次の3つがある。

(1)センシング
 メンバーの夢や目標・興味のあること,隠されている不平不満などを察知するスキル

(2)共感
 メンバーの想いに共感し,さらに考えていることを引き出すスキル

(3)演出
 メンバーの主体性を引き出し,自立的な行動を促すスキル

 これら3つのスキルは,それぞれメンバーに対する関与の深さに違いがある。「センシング」は,どちらかといえば広く浅く知るための関与である。「共感」は,ピンポイントでの深い関与。「演出」は,能動的にメンバーを動かすための,さらに深い関与であると言える。広く全メンバーをセンシングしながら,センサーに引っ掛かった気になるメンバーに共感し,さらに行動を促すために演出する。といった流れをイメージしていただきたい()。

図●3つのスキルのイメージ
図●3つのスキルのイメージ