日本の会社も最近はオーナー経営から脱皮し、法人としての意識が高くなり、経営理念やミッションステートメントなどを明確に掲げている企業が多い。会社がどんな方向を向いているかを従業員に示すのは経営者の責務であり、従業員の士気を高めるには必要なことである。しかし、各部門がミッションを掲げている例は珍しい。

 サントリーの情報システム部のミッションは、常務取締役の神谷有二さん(2008年4月1日から品質保証本部長)が2005年にCIO(最高情報責任者)に任命されて行った最初の活動といえる。「情報システムは業績に貢献しているか?」だ。

 神谷さんはまず、現状把握に着手する。182の情報システムの再評価、その一つひとつの目的・機能・コスト・問題点を半年かけて全部ヒヤリングをした。各部門とシステム部門のミーティングは25回に及んだ。各部を20回以上訪問した。納得がいくまで、伝えられた事実が本当かどうかを探求した。

目標に業務成果

 現状把握が終わると、課題を把握したうえでの中期目標の設定だ。情報システム費は売り上げの1%だったが、経費の削減30%を計る一方で、業務成果を30%上げることを目標とした。もっと前に出る情報システム部門が作りたかった。

 さらにこの目標達成のために、開発した情報システムのPDCA(計画・実行・検証・見直し)サイクルを回す。システムオーナーの明確化や業務成果へのコミットなどを話し合うコンセプト会議を設け、システム開発と利用者への教育を行った。

 結果として、ほぼ全ての開発案件が投資効率の基準値(ストライクゾーン)に収まった。普遍的に見えるこの神谷さんのやり方は、実は、その実施方法で大きくほかと異なっている。

 徹底的な調査、徹底的なPDCAだ。それだからこそ、初めて目標が生きてくる。情報システム部門には、会社の業務を完全に理解している75人が働いている。ここが会社との接点の部分であり、アウトソースはできない。

 情報システム部門こそ、会社を横串でできる唯一の部門だ。業績への貢献無しに、情報システム部門の存在価値はない。

石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)氏
ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO
シリコンバレーでコンサルティング会社を経営後、1999年にネットイヤーグループに参画。事業戦略とマーケティングの専門性を生かしネットイヤーグループの成長を支える。日米のベンチャーキャピタルなどに広い人脈を持つ。スタンフォード大学MBA