遠藤 紘一
リコー 取締役副社長執行役員CSO兼全社構造改革担当

 業務改革を伴うIT(情報技術)の導入プロジェクトを進める際、CIO(最高情報責任者)の頭痛の種になりやすいといわれる話題の1つに、「プロジェクトを召集しても、現場が適切な人材を送り出してくれない」という話がある。現場リーダーでなく、比較的時間の都合をつけやすい人しかプロジェクトに寄越さないといった類の話である。

 これを「IT活用プロジェクトがいかに重要かという認識が現場に十分に浸透していないからだ」とする見方もあれば、「CIOの社内的な影響力が不足しているからだ」とする見方もあるらしい。

狙いがあいまいなプロジェクトは敬遠される

 どちらの見方も間違っているのではないかと私は考えている。CIOの人脈や人望の問題というより、プロジェクトの狙いがあいまいなままスタートしがちなことに問題がある。

 本当に課題が明確に見えた状態で召集したならば、現場もより適切な人材を出すよう考えてくれるはずだ。ところが、IT導入プロジェクトでは、コスト削減や業務効率化など大上段なテーマを掲げてはいるものの、掘り下げが今1つで真の問題が不透明なままなものが少なくない。「現場のキーパーソンを出しても、課題を掘り下げて明確化する作業だけで相当な時間を取られてしまいそうだ」「召集されて『あなたは何をしてほしいの』とたずねられても困る」と思われてしまっては、最初から現場は及び腰になる。

 あるいはプロジェクトが掲げる問題の認識が、現場と食い違う可能性もあるだろう。数年前には、在庫削減プロジェクトといえば、「ITを活用した高精度な需要予測」といった話題が少なくなかった。実際には「本当に需要予測に取り組むことが問題解決なのか?」という疑問が現場にくすぶっていた。

 結果、当社は全く逆の解決方法を採った。商品単位の需要をうまく予測できなくても生産量の調節を柔軟にやれるようにしようという発想を重視することで、この15年間ほど在庫削減を進めてきた。

 商品単位の需要予測を正確にすることは確かに難しい。だが、本当の問題は、予測の難しさというより、「需要の変動が起きても生産量をそれに合わせて変えられない」ことだという発想に立つこともできる。そこで、製品間の設計仕様や部品の共通化、生産リードタイムの短縮、生産ラインにおける段取り替え時間の短縮などを重点的に進めてきた。

 何が必要なのかを突き詰めれば、パッケージを使わなくても、必要な情報基盤を安価に構築することが可能になる。当社でいえば2001年に入出庫・在庫情報を統合管理するようにした「GIV情報システム」がそれに該当する。