G空間サービスに向けた最大の課題はGPSの精度向上である。ここまで見てきたテーマに比べると実現は少し先の話になりそうだが,精度向上も技術面での解決策が提案されている。

 具体的には,携帯電話などが内蔵するコンシューマ用GPS受信機で精度を上げる方法として準天頂衛星の運用が期待されている。準天頂衛星は日本の上空に位置する人工衛星で,24時間カバーするには3機以上の衛星が必要(図1)。1号機の打ち上げは現在の予定では2010年。1号機で各種のテストが行われた後に2号機,3号機と続く。3機そろうのは「2013年から2015年ころになるだろう」(衛星測位利用推進センター利用推進本部の松岡繁副本部長)。

図1●準天頂衛星の軌道
図1●準天頂衛星の軌道
地上から見ると8の字の軌道になる。1機が日本上空にとどまる時間は8時間。24時間カバーするには最低3機が必要。

 準天頂衛星が打ち上げられると,(1)これまで使えなかった場所,使えても誤差が非常に大きかった場所でGPSを使えるようになる,(2)これまでGPSが使えた場所では1m前後まで誤差を小さくできる,という二つの効果を見込める。

 (1)ではほぼ日本の真上に位置する準天頂衛星からGPS信号を発信し,GPS衛星を補完する。ビルの谷間など従来は信号を受信しにくかった場所でGPSが使えるようになる。

 (2)は(1)よりも実現の難易度は低いと見られる。GPSでは様々な原因で誤差が生じるが,この誤差を補正するデータを準天頂衛星から配信するものだ(図2)。これは「DGPS」という仕組みで,地上波や静止衛星を使う方式が実用化されている。

図2●準天頂衛星からGPS信号の誤差補正データを送り,測位の精度を高める
図2●準天頂衛星からGPS信号の誤差補正データを送り,測位の精度を高める
電離層遅延などが誤差の原因となるのでこれを補正する。

 GPSの電波は地球の電離層や対流圏を通過する際に遅延が起こり,それが誤差の要因となる。電離層や対流圏の状態は刻々と変わるので,生じる遅延も一定ではない。そこで全国1250カ所にある電子基準点でGPS信号を受信し,そこから電離層や対流圏の状態を“逆算”して求める。その結果から補正データを作り出し,準天頂衛星経由で端末へ配信する。補正データを作成する間隔が短ければ短いほど電離層や対流圏の最新状態を反映できるのでGPSの精度を高められる。