省電力GPSチップによって常時測位が可能になったとしても,GPSには屋内で使えないという大きな欠点が残る。携帯電話はGPSが使えない場所でも携帯電話基地局による測位で現在位置を取得できるが,精度は低く誤差が1kmを超える場合がある。屋内ではビルの何階にいるのかといった高さ情報も重要だ。そこで,屋内の測位にはGPSとは別の仕組みが求められる。

 屋内測位は現在,様々な方式が提案されている(表1)。その中で,純粋に技術面だけを考えると「IMES」が最も有望と言える。IMESは宇宙航空研究開発機構(JAXA)と測位衛星技術が共同開発した技術で,GPSと互換性のある信号を小型の専用装置から発信する。

表1●屋内測位に使える主な技術
様々な方式が提案されている。その中で,技術面ではIMESが,商用化の面ではインフラが既にある無線LANの方式が有利と見る意見が多い。
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表1●屋内測位に使える主な技術<br>様々な方式が提案されている。その中で,技術面ではIMESが,商用化の面ではインフラが既にある無線LANの方式が有利と見る意見が多い。

 最大のメリットは端末側のハードウエアとして既存のGPS受信機をそのまま使えること。「携帯電話であればファームウエアの微修正で対応できる」(測位衛星技術の鳥本秀幸社長)。GPSとシームレスに使え,発信するのは緯度・経度・高さなどの位置情報そのものなので,受信機側での測量計算は不要だ。発信装置は1台当たり数千円程度の価格にまで抑えられるという。

 IMESの発信装置をビル内に設置すれば,装置の場所がそのまま“現在位置”になる。当然,発信装置の台数を増やすほど誤差は小さくなる。この2月にはナビタイムジャパンやKDDIが神戸市の三宮地下街で実証実験する。実験では70機のIMES装置を設置し,携帯電話でナビゲーションなどのテストを実施する。

 技術面では良いことずくめのIMESだが,「最大の課題はビジネスモデル。誰が装置を設置し,メンテナンスするのか」(鳥本社長)である。IMES装置自体は安価だが,敷設や管理には当然コストがかかる。それを誰が負担するのか,費用をかけてまで屋内測位のインフラを整える利点は何かがまだはっきりと見えていない。

ビジネスモデル面では無線LANが有力

 これに対し,ビジネスモデル面で先行するのが無線LANアクセス・ポイント(AP)を測位に使う方式だ。既にクウジットの「PlaceEngine」やiPhone/iPod touchが標準で使う米スカイフック・ワイヤレスの「Wi-Fi Positioning System」のような実サービスがある。不特定多数の無線LAN APを使うため,厳密性に欠ける場合はあるが「既にインフラができているので屋内測位の最も現実的な方法なのではないか」(ヤフー 地域サービス事業部地図営業部WEBサービスの入山高光リーダー)との意見が多い。

 可視光通信を使う測位も可能性がある。今後普及が予想されるLED照明から位置情報を送れるため,照明器具を取り付ける“ついでに”導入できるからだ。可視光の届く範囲がそのまま通信範囲なので,きめ細かな位置情報の配信が可能だ(写真1)。端末は「赤外線通信のデバイスとほぼ同じサイズにできる」(慶應義塾大学大学院の春山真一郎教授)。携帯電話にも組み込めるという。

写真1●可視光通信を利用した位置連動サービスが提案されている
写真1●可視光通信を利用した位置連動サービスが提案されている
写真は照明から情報配信を受けるデモ。照明と通信装置を一体化できる点が可視光通信のメリット。