3次元地図やパノラマ地図は,見た目がリッチになるだけではなく,情報量もリッチになる。例えば,緯度・経度に加えて「高さ」の情報が加わり,利便性の面でも3次元地図を使うことの効果が出てくる。

 高さ以外にも,活用できる情報要素が多いほど,新たなサービスが生まれる可能性が高まる。KDDI研究所は携帯電話が内蔵するGPSや加速度センサー,マイクなどのデバイスを利用して,ユーザーの移動状態を検出する技術を開発。「完成度は90%」(開発を担当するKDDI研究所の小林亜令 特別研究員)とする。

 同技術は,「歩いている」,「走っている」,「電車に乗っている」といった端末を持つユーザーの7種類の移動状態を推定可能だ。推定精度はどれも80%以上と高い。「マイクからの音を自動車かバスか電車かの判別に使うなど,複数のデバイスを複合的に使って推定精度を高めている」(小林特別研究員,図1)。

図1●KDDI研究所が開発中の移動状態推定技術の精度<br>携帯電話ユーザーの移動状態を高い精度で推定可能。加速度センサー,歩数計,GPSなどの携帯電話内蔵デバイスを複合的に利用して推定する。開発を担当する小林亜令・特別研究員によると「完成度は90%」。
図1●KDDI研究所が開発中の移動状態推定技術の精度
携帯電話ユーザーの移動状態を高い精度で推定可能。加速度センサー,歩数計,GPSなどの携帯電話内蔵デバイスを複合的に利用して推定する。開発を担当する小林亜令・特別研究員によると「完成度は90%」。
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 端末がユーザーの移動状態を認識できれば,いろいろな用途に使えそうだ。電車に乗っているときはニュースや運行情報を,歩いているときは周囲のレストラン情報をというように,ユーザーの状態に合わせて提供する情報を自動的に変える機能を実現できる。

6軸センサーで“ユーザーの向き”まで把握

 さらに,端末あるいはユーザーの向きを位置情報の一部に加えられれば,冒頭の例のような空間の検索やナビゲーションが現実になる。こうした方向検出は,最近普及し始めている「6軸センサー」を使うことで可能になっている(写真1右)。6軸センサーは3軸の地磁気センサー(電子コンパス)と3軸の加速度センサーが一体になったもので,東西南北や上下といった端末が向いている方向と端末に加わった加速度の方向が分かる。旭化成エレクトロニクスや愛知製鋼が携帯電話向けのセンサーを開発しており,au(KDDI)の「W62CA」やソフトバンクモバイルの「923SH」,海外では米T-モバイルUSAの「T-Mobile G1」などに搭載されている。

写真1●センサーやGPSチップも進化中
写真1●センサーやGPSチップも進化中
英エア・セミコンダクターの省電力型GPSチップのモックアップ(左)と,旭化成エレクトロニクスが開発する6軸の地磁気/加速度センサー(右)。

 地磁気センサーには「太い鉄筋が高密度に並んでいる場所だと地磁気が乱れ,最悪で20度くらいの誤差が生じる」(KDDIの小林特別研究員)という問題が残る。それでも,6軸センサーは今後,携帯電話端末に標準搭載される可能性が高く,利用が進みそうだ。

 6軸センサー以外にも,半導体チップの進化による影響がある。省電力型のGPS受信チップだ。例えば英エア・セミコンダクターが開発する「Airwave1」(写真1左)は,「従来製品よりも50分の1~100分の1の省電力を実現した」(同社のスティーブン・グレアム マーケティング担当副社長・創業者)。当面はデジタルカメラへの塔載を狙う。「現在,日本の主要なデジタルカメラ・メーカーと話をしている。将来は携帯電話にも展開したい」(グレアム副社長)とする。

 位置取得の精度と電力消費はトレードオフの関係になる。Airwave1は必要に応じて自動的に精度を上げ下げすることで電力消費を抑える仕組みを持つ。他のセンサーとの連動やアプリケーションの設定によって,電車に乗っているときは精度を低く,目的地に近付いたら精度を高く,といった動作となる。

 省電力であればGPS信号の“常時受信”が可能になる。現在のGPS受信機の課題の一つは,初期位置算出時間が長いこと。場合によっては数十秒かかり,これでは頻繁にGPSを使えない。常時受信していれば,必要なときに瞬間的に位置情報を取得し,即座にネット地図を使えるようになる。