第8回ではファシリテータの役割と,日常生活でのスキルアップについて解説した。今回は「討議をうまく仕切るには?」と題して,ファシリテータとして会議を仕切るテクニックを解説しよう。

 問題や課題の解決策を検討する会議,計画や実績,事例を共有する会議(報告会や連絡会など),承認を求める会議など会議の目的は様々だが,どんな会議にも,程度の差こそあれ必ず「ファシリテータ」が必要とされる。

 前回述べたように,ファシリテータとは,

議論に中立の立場で,議論のプロセスにかかわり,チームの成果が最大になるように議論を促進する人

のことだ。ファシリテータはリーダーが務めることもあれば,リーダー以外のメンバーあるいは第三者が務めることもある。

 では早速,ケーススタディから始めよう。

 情報システム室主任の山田さとしがリーダーを務める,あけぼの産業の次期基幹システム再構築プロジェクト。プロジェクト・メンバーはインタビューや資料収集に基づいて各部門の業務・システムの問題抽出に取り組み,自部門の問題・課題をなんとか整理できた。

 情報システム室の第1会議室にて。

山田:「今日は,今まで皆さんに整理してもらった問題と課題をメンバーで共有して,他部門の観点から意見を出し合うために集まってもらいました」

 山田は,あらかじめホワイトボードに書いておいた進め方を説明した(図1)。

図1●山田がホワイトボードに書いた会議の進め方
図1●山田がホワイトボードに書いた会議の進め方

山田:「検討順序としては,全社の業務の流れに沿えば理解しやすいと思って,こういう順番を考えてきました。いかがですか?」

佐々木(財務):「『開発』の順番を最後にして,『情報システム』までで抜けさせてもらないかな?今まで開発とかかわったことはほとんどないので,業務内容を知らないんだ」

山田:「開発は財務とのかかわりがないのですか?」

藤堂(開発):「開発予算は全社に占める割合が高いし,財務とのかかわりは,もちろんあるよ。佐々木主任もいずれ関係するようになるし,メンバーで財務を見られるのは佐々木主任だけだから,ひとつ頼むよ」

佐々木:「分かりました」

 検討順序が決まり,初めに営業の田中主任が,営業部門における問題と原因を資料に基づいて説明していった(図2)。

図2●田中主任が整理した営業部門の問題と原因
図2●田中主任が整理した営業部門の問題と原因

田中:「・・・です。次の『受注後の追加・変更に応えきれない』は,受注確定後の追加,数量の変更,キャンセルなどに生産が対応できない問題です。その原因については,『受注キャンセルが生産に反映されない』と『受注~出荷までに必要な期間が長い』を挙げました」

鈴木(生産管理):「この『受注キャンセルが生産に反映されない』ってどういうことですか?」

山田:「田中さん,この問題の事例は何かありませんか?」

田中:「そうですね。先月A社の案件を受注してシステムに登録したんですが,急遽キャンセルされてしまいました。すぐに生産管理に電話して生産進捗を確認したところ,生産を始めた構成部品はなかったので登録をキャンセル扱いにしたんです。ところが翌日,いくつかの構成部品が生産されて在庫になってしまいました。結局,営業のキャンセルのタイミングが遅かったことが原因ということになりましたが,きちんと確認していたので納得できていません」

鈴木:「ああ,あの件か。それなら生産管理と製造でも問題になって,製造の高田工長と原因を調べました」

高田(製造):「電話のタイミングでは確かに生産していなかったんだが,いくつかの部品はキャンセルできるタイミングを過ぎていたから在庫になってしまったんだ」

伊藤(購買):「あの件では,調達でもサプライヤーからの購入品が在庫になって問題になりましたね」

佐々木:「財務でも在庫金額が膨らんで問題になりました」

 山田は,開発の藤堂技師長が発言せず,考え込んでいる様子を見て発言を促すことにした。

山田:「藤堂技師長,開発でも影響がありましたか?」

藤堂:「いや。開発では大した問題にはならなかったと思う。しかし社内では大きな問題になっていたことがよく分かったよ」