米通信事業者大手のAT&Tが大規模な組織再編を計画している。固定電話や携帯電話といった従来型のサービス別組織ではなく,コンシューマや法人といった顧客別の組織に転換。各サービスの垣根をなくした連携サービスを強化し,ケーブルテレビ事業者との競争に挑む。

(日経コミュニケーション編集部)

 AT&Tは,固定-携帯,通信-放送の連携や競争力の強化に向け,組織を4事業部に再編。(1)コンシューマ事業,(2)法人事業,(3)インフラ事業,(4)多角事業(国際投資や電話帳,公衆電話など)の各事業部を新設する。

 米国通信市場の競争状況などを通じて,AT&Tの組織再編の概要や背景,AT&Tの戦略などについて解説する。

サービス別から顧客別の組織へ

 AT&Tの組織再編は,固定事業や携帯電話事業を中心とする従来のサービス別の組織を,コンシューマや法人といった顧客別の組織に転換するものである。今回の動きは,通信市場において固定-移動,通信-放送の違いが次第に薄くなる中,各サービスの垣根をなくし,競争力のある魅力的なサービスやソリューションの開発を促進。いち早く市場に投入することで,ケーブルテレビ事業者との競争(後述)を優位に進めたいとの思惑がある。

 また,ブロードバンドやIPTVなどの固定サービス,携帯電話サービスの販売・マーケティング機能の連携をこれまで以上に強化。すべての通信サービスやソリューションを顧客に対してワンストップで提供することで,ユーザーを囲い込む狙いもあると見られる。実際,コンシューマ事業のトップに就任するラルフ・デ・ラ・ベガ氏(現AT&TモビリティCEO)は,「ユーザーはあらゆる通信サービスをAT&Tから受けたいと考えている」とコメントしている。

「スリー・スクリーン戦略」を推進

 AT&Tは,固定電話やブロードバンド,TV,携帯電話のバンドル・サービスの販売に加え,TVやパソコンと携帯電話を連携させた様々なサービスを提供している。具体的には,屋内の様子をパソコンや携帯電話から確認可能な遠隔監視,外出先から携帯電話を通じたIPTVの録画,TV画面上での通話履歴やボイス・メールの確認,携帯電話と固定電話のボイス・メールやアドレス帳の共有などを可能とするサービスなどが挙げられる(図1)。

図1●AT&Tが提供する固定-携帯,通信-放送の連携サービスの例
図1●AT&Tが提供する固定-携帯,通信-放送の連携サービスの例
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 さらにAT&Tは,コンテンツをTVだけでなく,パソコンや携帯電話から利用できる環境の実現などを目指す「スリー・スクリーン戦略」を推進している。今後はこれらの機器に,共通の広告や独自コンテンツを配信することを検討するなど,新たなサービスの提供に重点的に取り組む姿勢を見せている。

 AT&Tは連携サービスにいち早く取り組んだ通信事業者であり,今回の組織再編の背景の一つには,こうした戦略の実現に向けた体制の構築があると考えられる。