エノテック・コンサルティングCEO
海部 美知 エノテック・コンサルティングCEO
海部 美知

 米自動車ビッグ3救済法案が米上院で否決された12月11日,カナダでは投資会社が大手電話会社BCE(旧ベル・カナダ・エンタープライズ)の買収を中止した。LBO(レバレッジド・バイアウト)のための借入金が膨大になり,買収後の経営が困難になるという判断が中止の根本原因である。その前日には,BCEと起源を同じくするカナダの通信機器メーカー,ノーテルが破産の危機にあると報じられた。

 世界的不況の中,通信業界にもここ1~2カ月の間に暗雲が立ち込め始めている。通信技術やサービス水準の高さで知られてきたカナダで,二つの伝統企業の悪いニュースが同時に出たことに,事態の深刻さがうかがえる。

未だに響くバブルの後遺症

 BCEとノーテルのニュースに直接の関連はないが,テレコム・バブルの後遺症を引きずっている点が共通する。

 BCEの不調は,バブル期にインフラ投資よりもメディアやポータルの買収を優先したことが原因と言われる。その結果,携帯電話加入者数ではカナダ第3位に甘んじ,ブロードバンドだけでなく固定電話までケーブル会社にシェアを奪われたからだ。

 一方のノーテルは,1990年代後半に光ファイバ機器の拡張路線を採り,それがバブル崩壊時に致命傷となった。その後追い討ちをかけるように,2004年には不正会計問題を起こし,最近では得意とするcdma2000方式の退潮のため,携帯電話システム向け装置の新規販売が鈍っている。

通信事業の二つの波と不況が重なる

 今から振り返ると,通信バブルとその後の携帯ブーム期に当たる1990年代から2000年代前半にかけての時期は,通信業界にとって際立って特殊な「夢の時代」だった。このころ,幹線光ファイバと携帯電話の技術分野では劇的なコスト削減と機能向上が同時に起こり,それらのインフラ投資はユーザー,通信事業者,機器メーカーの3者の利益になり,そのため短期間で儲かる構造となっていた。こんな「三方一両“得”」の事業が,通信分野で二つ続いたことはむしろ珍しい。

 通信事業は,技術革新のペースが早いながらも,投資回収期間の長い「インフラ商売」であり,公益事業に近い。今後の主力の固定ブロードバンドや無線データ・サービスではそうした本来の姿が表れており,かつての「三方一両“得”」の構造は見られない。

 加えて,今や機器メーカーの生命線である無線通信向け機器では,LTE(long term evolution)向けの設備投資が本格化するのにまだ時間がかかり,当面は設備投資の「谷」に当たる。

 「高成長の終焉」という大きな波と,「CDMAからOFDMAへの移行空白期間」という小さな波,さらに世界不況までが重なってしまったのが,現在の通信事業の状況ということになる。

 不況とはいえ,通信の需要が一挙に無くなることはない。テレコム高成長期のひとときの夢から早く覚め,早く手を打ったところは生き残る。

海部美知(かいふ・みち)
エノテック・コンサルティングCEO
 NTTと米国の携帯電話ベンチャNextWaveを経て,1998年から通信・IT分野の経営コンサルティングを行っている。シリコン・バレー在住。
 米国の感謝祭明けの月曜日,eコマースにおけるクリスマス商戦の重要日「サイバー・マンデー」に,売り上げが前年比15%増を確保できたという。大幅な値引きのせいで利益は薄いと言われてはいるが,「悪いニュース」の悪循環をなんとかせき止めようという関係者の努力が感じられる。