遠藤 紘一
リコー 取締役副社長執行役員CSO兼全社構造改革担当

 ここ数年、現場起点の改革活動に対する経営上の期待はますます高まっている。ただ、改革には失敗がつきものであることも事実だ。もちろん小さな失敗で済むものもあるが、大きな失敗になると数億円、数十億円もかけて導入したIT(情報技術)ツールが現場で十分に活用されなかったり、数カ月も活動したのに成果を出す前にやる気が無くなってしまったりといった結果にもなってしまう。

 そこで私は2007年に『改善、改革に臨む心構え』という小冊子をリコー社内の幹部と現場リーダーに向けて配布した。これは時期を同じくして配布した『可視化マニュアル・第1集』とセットで発行したもので、現場リーダーとして自分自身が活動していた1980年ごろの記録を再度、まとめ直したものだ。

 この心構えは全10項目にわたるもので、現場改革でつまづきがちな点を網羅した内容だと自負している。今回、その中から、多くの企業の現場リーダーにとっても身近と思われるつまづき、いわば“落とし穴”をピックアップした。

 今回から6回にわたって、解説しようと考えているのは以下の5点の間違いや誤解である。

  • 活動のリソースが無いからと諦める
  • 大き過ぎる目標を立てて挫折する
  • 本質的な解決ができない(2回)
  • 標準化と一本化を取り違える
  • IT導入前にすべきことを誤る

 これら5点の間違いや誤解を、順を追いながら解説してみたい。

安易に活動のリソースを望むな

 そこで今回はまず「活動のリソースが無いからと諦める」という間違いについてである。

 例えば、経営トップから「改革してほしい」というと、あなたや周囲はどんな反応をするのだろうか。改革の方針や意義そのものに賛成したとしても、案外、こう思う人が多いのではないだろうか。「私は忙しいから、改革に協力するのはちょっと難しい。誰かがやってくれるだろう」

 現場リーダーは、当然のことだが、日常的に責任の重い仕事を任されて、有能な人ほど忙しい。新たな改革活動を始めるならば、「トップダウンでしかるべき人事を実施して明示的に改革活動の時間を確保したほうがいい」「改革活動をするためには、現場リーダーを補佐してくれる人を増強してほしい」と願う現場リーダーがいたとしても、不思議はない。

 だが、逆にこう考えてみるとどうだろうか。スピード重視で改革体制を組み、トップダウンでプロジェクトチームを編成し、大金を投じて新しいマネジメント手法を入れるやり方を採ったとして、果たしてそのようなやり方を採ることが成功を約束するのだろうか。業務改革を実施するために大金を投じてITを導入したプロジェクトでは、決してそうではないと言わざるを得ない事例が世間にあふれている。むしろ、現場視点をおろそかにした結果、ますます無駄なコストを投じただけ、という結果に終わることもある。

 実は冒頭で紹介した「改善、改革に望む心構え」を私に考えさせる大きなきっかけとなったのは、生産本部にいた1980年代前半に「CIM(Computer Integrated Manufacturing)」という、生産設備の自動化がブームになったことだった。そのころ思うように成果が出ないプロジェクトを見聞きし、自分自身はコツコツやって後日の大きな成果に結び付けた教訓が、今でも生きている。

 リソースを気前よく与えられた改革リーダーの中には、ひどい例になると、大きな予算に責任を感じるばかりに、失敗した時の言い訳ばかり考えるようになる人さえいる。コンサルティング料などが高額な大手ベンダーに大金を払ってプロジェクトを起こし、不調に終わると「有名な大手ベンダーに大金を払ってやってもらってもだめなくらい、このプロジェクトは難しかったのだ」などと社内で言い訳をするといった例がある。不相応にリソースを背負うと、このように本来の目的を見失う人が出てくるマイナス面は決して軽視できないものである。

 私は「改革のリソースがほしい」という現場リーダーには、こう話している。「改革のリソース(予算、人など)はもらえないものだと思って、自分で作り出すことをまず考えなさい。リソースを簡単にもらえると気前よく使ってしまいやすく、かえって失敗に陥りやすい」