米IP Devices代表
岸本 善一

 前回,新しい巨大データセンターは,広いスペースと安くてクリーンな電力を求めて,主に地方部に建設されることが多いことを紹介した。そこでは最先端のサーバーや電源,冷却技術が駆使され,高いエネルギー効率を競っている。話としては興味深いかもしれないが,こうした巨大データセンターの建設は,資金とスペースの制約からあまり日本では現実的ではないかもしれない。

 当然ながら,米国のデータセンターが全て巨大で最新というわけではない。米国にも,都市部に建設されるデータセンターもあれば,既成のセンターを改修するケースも多い。こうしたデータセンターが抱える問題は,日本と同様,スペースと電力コストの削減,電力の安定供給などである。単位面積あたりの電力消費量の増大に対処するため,エネルギー効率のよいデータセンターに改修することが急務となっている。

 連載の4回と5回では,都市型の中小規模のデータセンターのグリーンITの取り組みについて解説する。

米国データセンターの電力消費の実情

 データセンターの電力消費の実態を報告したものは数多くあるが,2007年に発表されたEPA(米国環境保護庁)の調査レポートは群を抜いて有益だ。

 同レポートでは,2000年から2011年までの全米のデータセンターにおける電力消費量の推移を示した。2007年から2011年までの将来予測については,複数の省電力技術や運用方法の適用度合いによって5つのシナリオを用意し,電力消費量の変化を精査している。この調査の段階では実証実験は行わず,理論値にとどまっていたため,当初データセンターを運営する人々の間では,この結果を容易に信用することはできないという声も多かった。

 しかしその後,シリコンバレーにあるSilicon Valley Leadership Group (SVLG)というコンソーシアムが中心となり,EPAのレポートにあるシナリオを基に実証実験を行い,その結果を「Data Center Energy Summit 08」で発表した。

 その内容を総括すると,「既存のデータセンターでも工夫次第でエネルギー効率を相当高めることができ,場合によっては新規のデータセンターにも負けないような結果を出すことができる」とのことだ。これは,都市部でデータセンターを運用する事業者にとって朗報と言える。

 EPAのレポートで示された全米のデータセンターの電力消費量の推移グラフを図1に示す。2007から2011年にかけては,5つのシナリオに分けて将来の電力消費量を予測している。

図1●米国のデータセンターの電力消費量
5つのシナリオに分けて将来の電力消費量を予測。従来の傾向を踏襲する,現状を維持するという2ケースのほか,省エネ技術導入のケースでは3つのシナリオ──改良型,ベスト・プラクティス型,最先端技術導入型に分けて電力消費量を精査した。最先端技術導入型では,現状維持型に比べてCO2排出量を4700万トン削減できると試算している。出典:EPA。
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 従来型とは過去の傾向をそのまま踏襲した場合。つまり何の対策も講じなければ,電力消費は2011年に2006年の2倍に達し,新たに10カ所の発電所が必要になると予想される。現在型とは現状維持の場合である。