北海道・函館地区で2008年4月に本格稼働した道南地域医療連携ネットワーク「MedIka」が、地域医療連携を推進しようとする各地の医療関係者や自治体から注目されている。補助金を得て地域医療連携ネットワーク構築に取り組んだが途中で頓挫するケースが多い中で、MedIkaがゆっくりではあるが着実に実績を上げつつあることが、注目される背景にある。同ネットワーク構想を打ち出し、その中核病院である市立函館病院と高橋病院、プラットフォーム開発にかかわった地場のSE企業であるSECを取材し、MedIka誕生の背景と現状をリポートする。

推進のきっかけがつかめなかった地域医療連携

市立函館病院の下山則彦副院長
市立函館病院の下山則彦副院長

 「当院は、急性期から回復リハビリ期、慢性期患者まで、すべてを診ていかざるを得ない、いわゆる『たこつぼ病院』と化していました。患者さんも完治するまでの入院を希望し、医師たちには『後方病院さえ確保されていれば、もう少し急性期医療に集中できるのに』という不満が長い間燻っていました」――。市立函館病院の下山則彦副院長は、「MedIka」構築前の同病院が置かれていた医療提供状況をこう振り返る。地域医療連携室長を兼務するようになり、何とかその状況を脱しようと周辺病院に協力を求めるも地域医療連携は遅々として進まず、打開策はないかとずっと悩んでいたという。

 函館市は人口約29万人に対し、急性期大病院3施設をはじめ、一般病床約4000床(急性期病床3000床)があり、一見、十分な医療供給体制が整っているように写る。しかし実態は、大病院も主要な診療科がすべてそろっている病院はなく、函館市以外の周辺地区は医療過疎に陥っており、特に重症患者を含む入院治療を必要とする医療は市内の病院に頼らざる得ない状況だったという。

 「道南地域北部の八雲地区を除いて、周辺各自治体の30~50%の診療が函館市内の病院に依存しているため、市内の急性期病院に入院した患者さんは急性期を脱しても地元の病院に帰れないのが実情でした。当院も紹介率は平均的な数字ですが、逆紹介率が低く、地域医療連携が進まず急性期医療と在宅医療の中間的な役割でとどまっていました。経営的にもこうした医療体制が、赤字状態が続く大きな要因の1つにもなっていたのです」(下山氏)といい、地域医療連携体制の確立が危急の課題だったと指摘する。

 「急性期病院としては効率的な医療と経営を維持するために在院日数を短縮したいと思う反面、患者さんからは追い出されたと思われたくなく、患者さんが納得して継続的な診療ができる連携医療施設を求めています。一方、連携先の医療施設は患者さんを受け入れるにしても、急性期病院でどんな診療をしたのか、検査結果や画像をどのように考えたのかといった情報を求めています。これをスムーズに行うことができる仕組みがないと地域医療連携は一向に進まない。その仕組みを作り上げるきっかけがほしかった」と下山氏は当時の心情を吐露する。

 その「きっかけ」を提供したのが、道南地域医療連携ネットワークのプラットフォームを開発したSEC医療システム事業部部長の伊藤龍史氏の提案であり、後の同ネットワークの実証実験で市立函館病院とともに中心的な役割を担うことになる高橋病院の高橋肇理事長の回復期患者受け入れ要請だったという。

急性期病院と回復期病院のニーズの合致でプロジェクトが始動

高橋病院理事長の高橋肇氏
高橋病院理事長の高橋肇氏

 開業115年目を迎える高橋病院は、五稜郭と並ぶ函館観光のメッカである函館山の麓に位置し、保健・医療・福祉ネットワーク事業を展開する。「観光地として名高いため地価が高騰、若い世代の住民が流出し、老人比率が非常に高い高齢者地域になっています。必然的にリハビリテーションを中心とした医療機能を提供せざるを得ない状況で、老健施設やグループホームなどと連携しながら、この地域の高齢者医療を支えていこうという方針を打ち出しています」と高橋病院理事長の高橋肇氏は言う。

 高橋病院グループは、病棟数179床の高橋病院本院ほか、介護老人保健施設「ゆとりろ」(150床)、認知症高齢者グループホーム「秋桜」、ケアハウス「菜の花」、訪問介護ステーション「元町」、居宅介護支援事業所「元町」などを擁し、『情報通信技術(IT)を活用した地域連携ネットワークを構築し、道南一のリハビリテーションシステムを確立する』ことを方針として、回復期・維持期医療機能の提供を鮮明にしている。

 高橋病院のIT化は、医療と介護をミックスした診療情報共有と提供を目的に2003年7月から電子カルテ(MI・RA・Is/EX:シーエスアイ)や看護業務支援システム(ナース物語:日本事務器)を稼動させている。また、2006年2月にはテレビ視聴やインターネット利用、高橋病院専用チャンネルによる各種コンテンツが視聴など患者アメニティ機能を提供するとともに、バイタルおよび実施入力と電子カルテ情報の提供機能を併せ持つベッドサイドシステムを導入している。

 「医療現場でITをどう活用するかは多くの医療施設での課題ですが、急性期、回復期・慢性期、さらには在宅介護までを地域完結型で実現するためには、ITは必要不可欠な要素。市立函館病院の地域医療連携ネットワーク参加への要請は、当病院のIT化によるリハビリテーションシステム確立という方針が合致したものでした」と、市立函館病院との実証実験開始の動機を高橋氏はこう述べる。こうしたニーズの合致とシステム提案がきっかけとなり、道南地域医療連携ネットワーク「MedIka」構想がスタートした。

 2007年4月に市立函館病院と高橋病院の2病院で実証実験が開始され、翌2008年1月に道南地域医療連携協議会が設立。医療機関39施設をはじめ、老健施設や介護支援施設、訪問介護ステーション、オブザーバーとして函館および渡島保健所を含め46施設が協議会に参加した。そして、同年4月にMedIkaは本格稼働することとなった。