Forrester Research, Inc.
フランク・ジレット バイスプレジデント兼プリンシパルアナリスト

 クラウドコンピューティングはIT企業の戦略立案者にとって混乱を招くトピックである。どういう事かと言うと、我々の大半は根本的に異なる二つのタイプのコンピューティング形態を示す“雲”を一つのものと混同しているのだ。具体的には「サーバークラウド」と「スケールアウトクラウド」と呼ぶものである。サーバークラウドは従来型のビジネスアプリケーションで求められるものをサポートするもの。一方スケールアウトクラウドは多数のマシンで巨大なワークロード処理するために設計されたもの。例えば、Webサイトやグリッドコンピューティングのアプリケーションが該当する。

 スケールアウトクラウドがサーバークラウドと違う点は大きく五つある()。まず極めて大きなワークロードを扱うという点。そしてソフトウエアのアーキテクチャーが疎結合である。RubyやPythonなどコンパイルの必要がないダイナミック型の言語フレームワークを用いて構築しており、多くのインスタンスを同時に稼働させられる。また、サーバークラウドはデータを失わないようにデータの状態を厳密に管理するが、スケールアウトクラウドはコンテンツが中心で、その状態管理はシンプルである。サーバー仮想化はスケールアウトクラウドで必ずしも必要とされていない。サービスの設定などプロビジョニングの柔軟性を高めるために使われる。

表●2タイプのクラウドコンピューティングの特徴
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表●2タイプのクラウドコンピューティングの特徴

 このように二つのクラウドは全く異なる性格を持つ。製品も提案手法も違う。フォレスターはIT企業の戦略立案担当者に以下の点を推奨したい。

 まずサーバーやストレージなどシステム基盤の戦略担当者は今ある仮想化戦略を更新すること。例えば、サーバークラウドの事業者や企業ユーザーのプロビジョニングや管理作業を支援するには、現在のx86サーバーの仮想化をターゲットとした製品を更新する必要がある。またスケールアウトクラウドの事業者には、専門チームによる新製品の提供や提案が求められる。

 ミドルウエアの戦略担当者は、どちらか強みを持つ方に注力するべきだ。

 企業アプリケーションプラットフォ ームの戦略立案担当者はサーバークラウドに適合するよう、アプリケーションのホスティングや、構成や設定をバックアップする追加サービスを提供する必要がある。一方でスケールアウトクラウドには、Ruby on Railsなど新しい軽量アプリケーション環境がふさわしい。この場合ホスティングの機能はサービス事業者か自社のPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)に加えるべき。マイクロソフトの「Azure」がこれにあたる。

 ホスティングやインターネット接続事業者、通信事業者の戦略立案者はどちらか一つのクラウドを選択するべきだ。単にコストの問題ではない。ユーザーのタイプや販売チャネルが全く異なる。アーキテクチャも違うので統合は容易ではないからである。