フリー・エンジニア
高橋隆雄 フリー・エンジニア
高橋隆雄

 大規模な導入事例が登場し始めたAsterisk。2009年の連載最初となる今回は,2008年のAsteriskに関する動きを整理し,新バージョン「Asterisk 1.6」で新たに分かった点や,2009年の展望などを述べる。

 少し間が開いてしまったが,今回が2009年最初の連載となる。本年もよろしくお願いします。

 連載間隔が開いてしまうことがたびたびあるが,最新情報は筆者のWikiおよび掲示板などで可能な限り提供しているので,参照してほしい。Wiki/掲示板の場合,情報提供者は筆者だけではないため,新情報がすぐに提供される場合もある。まだ少人数の集まりだが,ようやく日本のAsteriskコミュニティらしくなってきた感がある。ご協力いただいている皆さんには,この場を借りてお礼を申し上げる。

地方自治体によるAsteriskの導入

 今年に入って大きなニュースが流れてきた。秋田県大館市が職員の手によってAsteriskを導入した,という事例だ。これはAsteriskにとって,かなり大きなニュースである。しかも導入規模が500端末と多い。

 「職員の手によって」という点から明らかなように,大館市の事例で採用されたAsteriskは,商用版の「Asterisk Business Edition」ではなくオープンソース版のAsteriskである。このことから,大館市のAsterisk導入というニュースは,Asteriskコミュニティだけでなく,オープンソースのコミュニティにも大きな衝撃を与えたようだ。

 地方自治体によるオープンソースの導入といえば,2008年5月に発表された福島県会津若松市によるOpenOffice.org(OOo)の件が記憶にある方も少なくないだろう。この時,同時に「ある地方自治体がAsteriskを導入した」といううわさが流れた。当時,このうわさは,「会津若松市のことか?」と思われたが,会津若松市で導入されたのはOpenOffice.orgだけ。Asteriskが導入されたという情報はなかった。では「どこの自治体なのだろうか?」と騒ぎになったが,その後,詳細な情報が表に出ることはなく,分からないままだった。それが,前述の情報公開によって大館市であることが判明した。

 同市の情報公開によると,ケーブル敷設から機器の導入まで職員の手で行ったという。これはAsteriskにとって,もっとも望ましい形での導入といえる。というのも,オープンソースを利用するからといって外部のベンダー任せにすると,ソフトウエアの代金は安いかもしれないが,結局のところはパッケージソフトとあまり変わらない費用がかかることが多い。オープンソースを最も効果的に活用できるのは,“自力”による導入である。もちろん,その後の運用や継続的な使用における人的資源の確保は重要な課題の一つであり,一概に言い切れるものではないが,他のオープンソースのソフトウエア同様,内部で(企業なら社内で)メンテンナンスなどできることのメリットは,コスト面だけでなく,いち早くユーザーの要望を反映するといった業務の円滑化にも効果がある。

 今回の大館市の事例が,今後の各地方自治体のシステム導入に対して大きな影響を与えることを筆者は期待している。実際のところ,表立っては出てこないが,Asteriskの導入は進んでいるようで,「実はうちの会社でも入れているんですよ」というような話を近ごろよく聞くようになった。ところが残念なことに,実際に導入した際の事例を公開してくれる企業や団体は少ない。導入によるメリット/デメリットなどをお知らせいただければ,日本におけるAsterisk普及の一助となるので,ぜひご連絡をいただきたく思う。