通信事業者がSaaS(software as a service)基盤にアプリケーション・ベンダーを呼び込む動きが加速している。NTTは2008年12月,NGN(次世代ネットワーク)上でのSaaSに向けた米マイクロソフトとの提携を発表した。先行するKDDI陣営では,協業ベンダーの1社がサービスを開始した。

 NTTグループはSaaSをNGNのキラー・アプリケーションと位置付け,アプリケーション・ベンダーとの提携を急いでいる。「SaaS over NGN」での提携は2008年5月の米セールスフォース・ドットコムに続き,今回のマイクロソフトが2社目となる(図1)。

図1●SaaS事業に力を入れるNTTグループとKDDI<br>自社のSaaS基盤にアプリケーション・ベンダーを呼び込むため,提携を広範囲に進めている。
図1●SaaS事業に力を入れるNTTグループとKDDI
自社のSaaS基盤にアプリケーション・ベンダーを呼び込むため,提携を広範囲に進めている。
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 NTT持ち株は「新たにサービスを創造する戦略的な協業なので,サービス戦略,プロダクト企画,技術開発などの機能を有する米国本社とじかに提携した。グローバル展開も視野に入れている」と説明する。具体的な内容はこれから検討していく。

 一方,KDDIは2007年6月にマイクロソフトといち早く提携。SaaS市場への参入を計画する事業者向けの支援プログラム「Business Port Support Program」を展開中だ。2008年12月には第1弾のサービスとして,GCT研究所が統合業務アプリケーションのサービス「Just-iS」を始めた。2008年度中には第2弾のサービスが登場予定だ。

SaaS基盤ごとに事業者の“色”

 SaaS型ビジネスの展開に向けた通信事業者とベンダーの連携は,このほかにも進んでいる。データ・センター事業者のソフトバンクIDCは2008年12月からSaaS基盤のビジネスに参入し,グループウエアなどを提供するネオジャパンと提携。データ・センターを持つNECや富士通も同様の動きを見せるなど,各社がアプリケーションの拡充に躍起になっている。

 ただ,SaaS基盤の違いでサービスの特徴や展開に差異が出てきそうだ。例えばNTTコミュニケーションズは,同社のVPNサービスと組み合わせることで高いセキュリティや応答性能を実現できる点を訴求する。クループで推進するSaaS over NGNでは信頼性やセキュリティ,帯域保証などの付加価値をアピールしていくと見られる。

 これに対しKDDIは,SaaS基盤上のサービス同士を連携させる“マッシュアップ”により,高度なサービスを目指す。同時に,コール・センターを含め設備の準備から運用保守までの面倒をKDDIが見ることで,ベンチャー系ベンダーの取り込みを狙う。ただアプリケーション・ベンダーには,他サービスと連携するためのインタフェースを合わせる作業を強いられるなど負担もある。サービスの展開スピードが一つのポイントになりそうだ。