本命は従来システムを担当していたITベンダー。「当て馬」との不安が募る。東京デリカのPOSシステムを担当していた社内のベテランSEの協力を仰ぎ、リプレース商談に挑んだ。

 「最初はコンペに参加すべきかどうかためらったが、長年の夢だった基幹系システムの開発案件を受注できて本当にうれしい」。アイティフォーの流通システム事業部営業部第一グループ次長の相澤明則は喜びを隠さない。

 相澤が担当したのは、かばんやアクセサリー類の企画・販売を手掛ける中堅企業である、東京デリカの基幹系システムの再構築案件だ。東京デリカの従来の基幹系システムは、20年以上前に構築したもので、老朽化が進んでいた。システムに関するドキュメントを整備しておらず、日本版SOX法(J-SOX)への対応も難しい状況だったという。

 そこで同社は2005年9月から、基幹系システムの再構築を検討し始める()。基幹系システム再構築プロジェクトの責任者を務めたのは、東京デリカの常務である山田陽だ。同氏はまず、従来の基幹系システムのハードを納品した大手メーカーA社と、開発、運用・保守の実務を担当しているSIerのB社に相談した。

表●東京デリカがアイティフォーに発注するまでの経緯
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表●東京デリカがアイティフォーに発注するまでの経緯

 A社とB社は共に、小売業での実績が豊富なエス・エス・ジェイのERP(統合基幹業務システム)パッケージ「SuperStream」を提案。東京デリカは、SuperStreamの導入を前提に、2006年の約1年間、従来システムの課題や新システムの要件をまとめた。

 東京デリカは2006年末までにRFP(提案依頼書)を作成し、2007年1月にA社とB社にRFPを提出。3月に、A社とB社から受け取った提案内容を見て、山田はがく然とした。A社とB社の見積額は、東京デリカの予算の約3倍だったという。予算は約1億円だった。

「当て馬かもしれない」との不安

 そこで東京デリカは2007年3月、新たな開発委託先の候補としてアイティフォーに声を掛けた。アイティフォーは約15年、東京デリカの店舗POS(販売時点情報管理)システムの開発・運用を担当していた。

 アイティフォーの相澤は、東京デリカのRFPを受け取る前から、同社が基幹系システムの再構築に向けて動いていることを知っていた。山田の相談に乗ることもあったからだ。

 それが急に、開発委託先の候補になったのである。こうした状況から、アイティフォー社内には、“当て馬”になることを危惧する意見があった。「コンペの公平性を確保するためだけに、当社に声を掛けているような気がする」。