受託開発を中心事業として展開するITベンダーの日本システムディベロップメントの売上高営業利益率は,約20%に達する。その高収益を可能にしたのが「垂直型ビジネスモデル」だ。同モデルの基盤は,特定顧客との継続的な取引関係の維持にある。20年,30年という長期的な信頼を勝ち取ることで,同社は顧客企業を熟知した技術者を育ててきた。この経験から同社がユーザー企業に提案するのが,「かかりつけ医」型ITベンダーとのパートナーシップである。

日本システムディベロップメント 代表取締役社長 冲中 一郎 氏
日本システムディベロップメント 代表取締役社長 冲中 一郎 氏

 「日本システムディベロップメントという会社名に,馴染みがないかもしれません。それは,広告宣伝をあまり行っていないからでもあります。この点はビジネスモデルにも関係します」

 グループで4000人近い従業員を擁し,東証一部に上場する日本システムディベロップメント社長の冲中一郎氏は,自社の特徴から紹介し始めた。同社は1969年に設立した独立系ITベンダーで,主力業務の受託開発に加えて,保守・運用や製品販売も手掛けている。

 受託開発中心というと,一般には低い利益構造を余儀なくされているITベンダーが多いが,同社の高収益は目を見張るものがある。2008年3月期の売上高は437億円,営業利益は87億円(ともに連結)で,売上高営業利益率は
20%になる。「『なぜ,受託開発でそれほど高収益なのか』と,IR説明会などでしばしば聞かれます。私は『安定的なビジネスモデルを持っているから』と答えています」と冲中氏はいう。

 では,安定的なビジネスモデルの中身とはどのようなものか。冲中氏は「当社は特定のお客様と20年,30年という長期で継続的にお付き合いしています。このため,他社と競合することはほとんどありません」と説明し,その事業の特性を「垂直型ビジネスモデル」という言葉で表現する。

垂直型ビジネスモデルの基盤に顧客との継続的な信頼関係

 図に示したように,垂直型ビジネスモデルは比較的少数の顧客の情報システムに深く入り込み,多様な業務アプリケーションの開発(ときには運用も含めて)を担うというものだ。一方,多くのITベンダーは得意のアプリケーションレイヤーに特化し,それを多数の顧客企業に提供する。いわば,水平展開のビジネスモデルで,事業拡大には次々と新しい顧客を開拓し,新しいプロジェクトを提案し続けなければならない。もちろん水平展開が得意なITベンダーも存在するものの,多くのITベンダーは低収益に甘んじているのが実態だろう。

垂直ビジネスモデルとは
垂直ビジネスモデルとは
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 水平展開型モデルと対比することで,日本システムディベロップメントの強みが浮かび上がってくる。

 「第1に,広告宣伝や営業などにかかる販売管理費を最小化できます。第2に,SEの稼働率を最大化できます。当社のSE稼働率は90%以上で,同業他社の平均値よりもかなり高いはずです。第3に,プロジェクト失敗のリスクを最小化できます。こうしたビジネスモデルが可能になるのは,継続的に取引する顧客企業の売り上げ比率が70%という高水準だからです。当社の事業の根本にあるのは,顧客企業との強固な信頼関係なのです」と冲中氏は強調する。

 もちろんユーザー企業との信頼関係を維持・強化するため,様々な施策に取り組んでいる。それは組織体制や人材教育など,様々な部分に及んでいる。端的な例は,外注比率をできるだけ抑制していることだ。オフショア開発も原則禁止にし,同社プロパー社員による開発体制を基本としている。

 冲中氏は外注を抑えている理由について「当社は顧客企業の基幹システムを担当する場合が多くあり,非常に大きな責任を担っています。当然,システムの品質や人材の質,そしてコンプライアンス(法令順守)に最大限の注意を払っています」と説明する。

社内IT部門か,IT子会社か?「かかりつけ医」型ITベンダーの提案

 こうした独自の垂直型ビジネスモデルを築いてきた立場からユーザー企業の動向を見ると,冲中氏にはいくつかの気になる点があるという。

 「一時,IT部門を切り離して子会社化する動きが盛んになりましたが,成功例は少ないように思えます。子会社化とともに外販への注力が求められるようになり,本業をサポートする人員が薄くなってしまうケースも見受けられます。その反面,IT部門を社内に残しても,好不況に対する弾力性がなくなる,あるいは事業家としてのマインド醸成が難しいといった課題が残ります」。

 そこで,冲中氏が提案するのが,「かかりつけ医」型ITベンダーとのパートナーシップづくりである。「IT部門のSEを変動費化しつつ,顧客企業の業務知識やITの実態などに精通したSEを必要に応じて調達できるような仕組みが必要でしょう。それを可能にするのが,いわば『かかりつけ医』のようなITベンダーとの関係を強固にすることです。要は顧客企業と一緒に考えて行動する,そしてWin-Winの関係を構築できるようなITベンダーを選ぶことです。これがユーザー企業にとって非常に重要なことだと思います」(冲中氏)。

 そのほかにも,日本システムディベロップメントはユニークな事業にも取り組んでいる。その1つが新規ビジネスへのチャレンジから生まれた,株主優待システム「グッぴー」である。「長期保有してくれる個人株主を増やし,企業と株主がインターネットを使って相互にコミュニケーションする仕組みができないか。そう考えた入社3,4年目の若手女性社員のアイデアから『グッぴー』はスタートしました。2006年からサービスを開始し,株主数が半期で27%も増加しました」と,冲中氏はメリットを説明する。

 株主はグッぴーを使って,持株数や保有年数に応じたポイントを受け取る。それをカタログでのショッピングに使ったり,あるいはセブン-イレブンなどで使える電子マネー「nanaco」の機能を持つ株主カードにポイントを移したり,株主データを分析することもできる。2007年8月にはIR専門の子会社を設立して,グッぴーの外販にも乗り出した。これまでに8社からの受注があったという。