自社が注力している分野で絶対に失敗が許されないユニファイドコミュニケーション・システムの構築案件だ。ユニファイド案件に詳しい社内の営業担当者と手を組み、コンペに臨んだ

 「ここでの案件を取りこぼせば、社内で何を言われるか分からない。受注できて正直、ほっとしている」。NTTコミュニケーションズ(NTTコム)の第一営業部第二営業担当営業担当課長代理の金子清はこう言って、胸をなでおろす。

 金子が担当したのは、エスエス製薬の新たなコミュニケーションシステムの構築案件。IP電話システムや在席管理システム、インスタントメッセージなどからなり、最近ではユニファイドコミュニケーション・システムと呼ばれるものだ。

ITベンダー7社にRFPを提出

 エスエス製薬は、2008年4月の本社移転に伴い、新システムを導入することにした。2007年1月から同社は、新本社に導入する新システムについての検討を開始()。2007年春には、IP電話機を導入することを決めた。

表●エスエス製薬がNTTコミュニケーションズに発注するまでの経緯
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表●エスエス製薬がNTTコミュニケーションズに発注するまでの経緯

 2007年8月に、エスエス製薬の情報システム本部ITサービスマネージメント部インフラシステム課係長の相澤義徳は、IP電話機メーカー5社に、新システムの在り方について相談。情報を収集したうえで、RFP(提案依頼書)の作成作業に着手した。

 2007年9月、エスエス製薬はIP電話メーカー5社とNTTコムを含む7社のITベンダーにRFPを提出。NTTコムに声を掛けたのは、8年前から同社の本社と地方拠点とを結ぶWANの構築を担当するなど、以前から付き合いがあったことが理由だ。

 エスエス製薬のRFPには、「従業員のコミュニケーションを円滑にするための仕組みを導入したい」といったシステム導入の目的が書かれていた。

 この時点では、エスエス製薬が具体的に要求していたのは、次の3点だけだった。「IP電話機を導入する」「既に導入しているスイッチやルーターなどネットワーク機器を活用したい」「IP電話システムのユーザー管理に、マイクロソフトのActive Directoryの機能を利用したい」、である。

 「コミュニケーションの円滑化が目的なら、ユニファイドコミュニケーションの実現を提案すれば、先方は目的を達成できるはずだ」。RFPを受け取ったNTTコムの金子はこう判断した。

社内の専門家に協力を要請

 ユニファイドコミュニケーション・システムの導入を提案することに決めたものの、比較的新しいテーマだったこともあり、金子は不安を感じていた。「社内の詳しい人間の力を借りた方が、成約率を高めることができる。彼に頼んでみよう」。

 金子は、大久保利彦に協力を要請した。大久保は、NTTコムのソリューション&グローバルコンサルティング営業部門営業担当課長代理。NTTコム社内で、ユニファイドコミュニケーション・システムの提案を得意とする。

 以前、製薬業界の担当営業だったこともあり、大久保は金子とは旧知の仲。金子の依頼を快諾した。

 提案書の提出期限は10月である。あまり時間はない。2007年9月、金子と大久保は、RFPを読み込み、具体的な提案内容について毎日のように激しく議論した。

 「ユニファイドコミュニケーション・システムといっても、さまざまな機能がある。ユーザーにとっての必須機能は何かをこちらが決めるぐらいでないと、提案内容がぼやけてしまう」。

 「先方の社内コミュニケーション手段は、電話と電子メールのどちらが中心かを確認したのか」。

 「社内コミュニケーションを円滑にというが、具体的にどのような課題があるのかを明確にしてもらったか」。2人はこうしたやり取りを続けた。

 金子は当時、エスエス製薬の営業担当として、相澤をほぼ毎日、訪問していたという。相澤を訪ねるごとに、大久保との話し合いで出た疑問点を一つひとつ解決し、提案書作りを進めた。