1990年代以降,日本企業におけるIT改革は進展を見せてはいるものの,主要先進国に比べると決して進んでいるとは言えないのが現状である。その克服には,経営層/CIOからのIT要件に関する発信,差異化戦略の明確化,組み合わせとすり合わせの最適化によるIT構築などが必要になる。住商情報システムは,これまでのITパートナーのあり方の反省を踏まえたうえで,これからの役割と,それに対応したビジネス・セグメントやソリューションを提案した。

住商情報システム 取締役 専務執行役員 油谷 泉 氏
住商情報システム 取締役 専務執行役員 油谷 泉 氏

 OECD(経済協力開発機構)による1985年から2006年までの主要先進国の成長会計を見ると,日本は全要素生産性では19カ国中第3位と高いが,ITの寄与度では15位と一気に下がる。また,企業におけるITの活用状況を4段階で測る経済産業省の調査によると,情報システムの部門間・組織間連携(ステージ3)に到達した企業の比率は,日本は26%だが米国では54%。こうした結果から,日本企業のIT活用度は米国をはじめとする主要先進国に大きく引き離されていることが明らかである。

 住商情報システム 取締役 専務執行役員の油谷泉氏は,まずこれまでの企業におけるIT活用の変遷を分析してみせた。「経営課題とITの役割の変遷を見ると,1980年代の課題は主に品質向上や規模の拡大にあったのでITの役割は業務の支援,あくまで脇役でした。それが90年代になると,差別化やBPR(Business Process Reengineering)が課題となり,ITはビジネス強化の重要な役割を担うようになりました。そして,今では変化への迅速な適応が課題とされ,ITはビジネスのドライバとして,業務プロセスと切り離せないものになっています」。

 日本情報システム・ユーザー協会が発表した「企業IT動向調査2008」によれば,経営層はIT部門に対して,ビジネスモデルよりもビジネスプロセスの変革に取り組むことを期待しているという。しかし,IT部門のビジネスプロセス変革に対する取り組みについて,半数以上の企業が経営層の期待に応えているとする一方,業務部門によるビジネスモデル変革は,2~3割の企業しかその期待に応えられていないというデータもある。さらにユーザー部門の実情を見ると,IT活用の主体性が失われているという指摘がある。

経営層/CIOに求められるのは明確なIT戦略の発信

 このようにシステム領域とビジネス領域の境目が曖昧になる中で,「IT部門は技術の変化に対応できず,その実力は確実に低下し,組織の弱体化と保守に追われて疲弊している」という声も聞かれる。しかもITが高度化,複雑化,多様化したことで,技術者育成を困難にさせるとともに,自社の改革要件を明確に打ち出せなくなるという状態を招いている面があることも否めない。

 このことはシステムの導入にも影響を及ぼす。例えば,ERP導入を考えたとき,パッケージに業務を合わせる,合わない機能は作らないといったことが見受けられるが,それは正しくない。差異化するポイントは業務にあるからだ。競合他社との差異化を図るための業務とプロセスを決めるのは,現場ではなく経営層にあることを認識することだ。そのため,経営層は「ITを真の経営ツール」にするという覚悟を求められるだろう。

 油谷氏は,こうした状況下でのIT改革に関して5つの提言をする。「1つ目は,経営層やCIOが積極的にIT要件を発信することです。2つ目は,自社の強みを打ち出す差異化戦略を明確にすること。3つ目は,IT構築はERPモジュールの組み合わせと自社システムとをすり合わせて最適化すること。4つ目は,差異化戦略のためにキーとなるビジネスアーキテクトを育成すること。そして5つ目が,責任の持てるシステム運営体制と戦略的ITパートナーとの関係を強化すべき,ということです」。

 ここで重要になるのが,ITパートナーのあり方になる。これまでのITパートナーは一括契約という案件の呪縛があり,しかも新しい技術の導入や技術者の世代交代がうまくいっていなかった。RFP(提案依頼書)方式の縛りとプロジェクトリスクの増大もあって,品質よりコスト・納期重視に傾いていた。顧客やサービスを考慮するあまり,実力以上のサービスを提案したり流行を追い求めたりして基礎技術力の低下を招いてしまっていた。

ERPソリューションの中核となる“ProActive”
ERPソリューションの中核となる“ProActive”
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開発技術標準「SMART+」によりワンストップサービスを実現

 こうした反省を踏まえ,「ITパートナーは今後,次の3つの役割を果たす必要がある」と油谷氏は力説する。1つ目はBest of Bleed(最良)なソリューションへの誘導。技術より業務改革にITを生かすことだ。顧客企業の課題を共有して最適解を探求するとともに,業務への有効性の訴求,組み合わせとすり合わせを最適化したうえでの開発が求められる。

 2つ目は,真のワンストップサービス,つまり元請けとしての責任を果たすことだ。システムとネットワーク,データセンターの一体的運用と海外現地法人を含めたグローバルな運用サービスの提供が必要になる。3つ目は,ものづくりの重視である。サービス重視からものづくり重視へ,コスト・納期重視から品質・生産性重視に転換することが欠かせない。

 これらを実現するために同社は,ビジネス・セグメントをソリューション別に業務系,ERP,プラットフォームの3つに分けている。加えて,共通の開発技術標準「SMART+」を用意し,その基盤上にワンストップサービスを提供する。3年前から現場に導入した結果,不採算プロジェクトは10分の1に激減したという。

 一方,ERPソリューションの中核として力を入れているのが,中堅・中小企業向けに3500社,8200サイトへの導入実績を持つ「ProActive」である。最新バージョンの「ProActive E2」には,データ分析やB(I Business Intelligence),連結会計,生産管理などに特化した連動ソフトウエア製品群「ProShop」をそろえ,これらを導入することでProActive E2を中心とした最適な業務システムを,より短期間に,より低コストで構築できるという。

 油谷氏は,「住商情報システムは,ProActiveを軸に他の製品・ソリューションとの連携を強化し,顧客企業のグルーバルITパートナーとしての役割を果たしていきます」と強調して講演を結んだ。