オリンパスは2002年からERP(Enterprise Resource Planning:基幹業務システム)の導入を始め,現在は海外展開に取り組んでいる。一般にERP導入に際しては,アドオンの増加やプロジェクト日程の延長などによるコスト増などの問題が指摘される。これに対して同社は,一部のシステムを業務プロセスに合わせることでアドオン開発を最小限に抑えることに成功。本プロジェクトの中核として導入に携わった北村正仁氏による講演では,SIベンダーのあり方などについて示唆に富む提言がなされた。

オリンパス IT 改革推進部 部長 北村 正仁 氏
オリンパス IT 改革推進部 部長 北村 正仁 氏

 オリンパスは,2002年度の中期経営基本計画でERP(独SAP製)の導入を決定し,翌年に,それに伴う全社業務改革プロジェクト「BPIプロジェクト」をスタートさせた。2007年には国内IT基盤の整備を完了し,現在は海外での展開を進めている。

 一般的なERPの導入手法は「パッケージありき」で,SIベンダーのテンプレートを使ってフィットギャップ分析を行い,ERPに業務を合わせるというものだ。しかし,実際にはERPのシステムに業務を合わせることは困難であるため,膨大なアドオン開発が必要になり,日程の遅れとコスト増を招いてしまう。

 「業務部門の代表としてBPIプロジェクトに参加する中で,ベンダー任せの導入手法に大いなる疑問を感じました。そこで,あるコンサルタントのアドバイスを受け,新たな導入手法に挑戦したのです」と,オリンパスのIT改革推進部で部長を務める北村正仁氏は振り返る。

 具体的には,業務プロセスはベンダーに頼らず自ら作成し,それを業務機能(サービス)に分解する。そして,分解したサービスに合わせてシステムの機能を定義する。そのうえで機能を実現するモジュールを当て込むわけだが,最新モジュールを熟知するSIベンダーの支援を受けるのは,この段階からだ。これは,業務プロセスに合わせてシステムを組み合わせるやり方であり,いわゆる,SOA(Service Oriented Architecture)思想に基づくERP導入といえる。

システム,改革,経営の多軸でIT導入を考える

 今回,SOA思想で構築した修理CRM(Customer Relationship Management)では,800の対象業務機能に対して87のサービスの実装で対応。アドオンは,わずか9本で済んだ。「ベンダーによれば,世界的に見ても,非常に少ないアドオン数とのことです」(北村氏)。

 一方,現在取り組み中であるERPの海外展開におけるSIベンダーの選定では,グローバル企業,日本企業,インド系企業とも「帯に短し,たすきに長しで,スーパーマンはいないことがわかりました」(北村氏)。

 「多くのSIベンダーと接して,彼らがERP導入に際して強調する決めぜりふは4つあることがわかりました。それは,『ベストプラクティスで業務改革を』『システムに業務を合わせてください』『構築は実績のある旧バージョンで』『最後まで死んでもやり切ります』。その結果,ユーザー企業は“ERPアリ地獄”に陥り,身動きがとれなくなるのです」(北村氏)。

 しかしこれは,EA(Enterprise Architecture)とSOAの双方の観点からERPを位置付けることで解決できるという。つまり,これまでのようにERPに業務を合わせるのではなく,機能単位でシステムに実装し,業務プロセスはSOAの思想で実現するというものだ。なお,最新のERPにはSOAの要素が用意されており,そこからEA・SOAの第一歩を踏み出すことができる。

 最後に北村氏は,「ITなくしては経営が成り立たない時代ですが,ITの導入は,システム,改革,経営という多軸で考える必要があります。そうした中でSIベンダーには,顧客の期待を超える専門技術とサービス精神を持った真の“プロ”へと飛躍することを期待しています」と強調した。