当研究所では、グローバリゼーションをキーワードに、これからの企業基盤を考えます。そのために、「環境・人材」「プロセス」「テクノロジ」というITガバナンスの構成要素を“因数分解”していきます。第2回は、企業におけるグローバリゼーションの「段階的円熟モデル」を検討してみましょう。

 みなさん、こんにちは。基盤デザイン研究所長の矢坂徹です。第1回でお話ししたように、当研究所では「グローバリゼーションを円滑に推進する」という命題に対し、具体例も含めながら、その解決策を検討していきます。

 前回をおさらいすれば、グローバリゼーションを円滑に進めるためには、「心=能力(人材)・組織」「技=テクノロジ」「体=プロセス」というITガバナンスの三つの構成要素を並行して確立・改善していくことが重要であることを話しました。

再び「なぜグローバリセージョンなのか」

 さて本題に入る前に、みなさんからのご質問にお答えしたいと思います。第1回の公開直後から、様々なアドバイスやご意見を個人的に頂きました。本当に、ありがたいことです。励ましの言葉や、辛口ながら「なるほど」と思えるご意見などです。

 当研究所は2009年・年初から活動を始めましたが、頭の中にある考え方を、みなさんに分かりやすく説明するための文章を絞りだすことが、これほど大変だとは思ってもいませんでした。人生で初めて、苦しみ、もがきながら、原稿を書き始めたわけですが、Webを介して、職業や、立場、地域、年齢などが異なる様々な方々と考えを共有できることに、改めて喜びを感じています。

 みなさんから頂いたご意見の中で、最も私に気付きを与えてくれたのが、次の質問です。

「我々の大半が日本企業に所属しています。その環境下では、外資系企業と異なり、グローバリゼーションに対する取り組みが多岐にわたっていないのが現状です。日本企業にとって、なぜグローバリゼーションが必要なのでしょうか」

 ご指摘のとおりです。ここでもう一度、「グローバリゼーションが、なぜ必要なのか?」とい質問に答えながら、みなさんと、さらなる意識の共有を図りたいと思います。

アジアを視野に入れればグローバル化が始まる

 現在、私たちが直面している経済状況は、「100年に一度の不況」という枕詞付きで、新聞やテレビなどの各メディアによって毎日、報道されています。私は経済の専門家ではありませんが、日本が抱える社会・経済の課題が、深刻な状況にあることは否めません。少子高齢化社会、円高、消費低迷、内需縮小、デフレ現象などなど、課題の数には困りません。でも、「ピンチの後に、チャンス有り」です。

 これからの企業活動を考えると、北米や欧州、日本という“先進国ありき”で考えてきたビジネスチャンスは、少しの間棚上げにし、次のビジネスチャンスを待たなければならない状況にあります。では、アジアはどうでしょう?中国もインドも、様々な経済的苦境に追い込まれてはいますが、8%前後のGDPで成長しています。シンガポールを含めたASEAN(東南アジア諸国連合)加盟国がアジア経済を牽引している状況も、それほど変化がないと思います。

 ここで強調したいことは、グローバリゼーションに対する考え方は、我々が自らの視点を変え、日本国内のみからアジアという市場全体を広く見渡せるようになった段階で、変わってくるということです。むしろ、多くの企業経営者は、とっくにこうした視点でビジネスを考えているはずです。

図1●ビジネスの最適化を図ればグローバリゼーションが自ずと進展する
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 アジアを視野に入れれば、円高パワーを利用して、景気が良くなった時に備え、海外の拠点や販売網に設備投資することは、ごく自然な流れです。海外の投資や拠点の拡張が実際に行われると、自ずとグローバリゼーションは進むのです(図1)。さらに、日本に進出してくる外資企業やグローバリゼーションを進めた日系企業といった競争相手は、こうした発想をもってIT基盤や組織を考えています。日本市場に向けても、グローバリゼーションの流れは押し寄せてきます。

 ですから、日本市場を相手に日本企業で働いていたとしても、グローバリゼーションは決して対岸の火事ではありません。たとえ身近ではまだ、グローバリゼーションへの動きが起こっていなくても、ごく直近に起こり得ることだということだと認識しておいてほしいと思います。