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電子自治体の推進に関する懇談会(オンライン利用促進ワーキンググループ)報告書の公表(総務省,1月9日)

【ニュースの概要】総務省「電子自治体の推進に関する懇談会(オンライン利用促進WG)が,インセンティブと証明書等のペーパーレス化についての報告書を公表した。


◆このNEWSのツボ◆

 総務省の「電子自治体の推進に関する懇談会」内に置かれた「オンライン利用促進ワーキンググループ(WG)」の報告書の第二弾が公表された。総務省では,こうした利用促進の取り組みに比較的早期から取り組んでおり,2008年3月には第一弾として,モバイル(携帯電話)を利用した電子申請システムの構築や自治体による各種証明書の電子交付の検討を主眼とした報告書を公表している。この第一弾の公表は,IT戦略本部の「オンライン利用拡大行動計画」(2008年9月)よりも早く,その意味では総務省が本件に意欲的であることを示しており,この点は評価されるべきであろう。

 今回の報告書は,インセンティブのあり方と証明書等のペーパーレス化についての提言がなされている。有料道路におけるETCの利用が「ETC割引制度の導入」によって一挙に進んだように,適切なインセンティブの導入は,サービス提供者と利用者の双方にとって大きなメリットをもたらす。その意味で,インセンティブの付与を検討することは意味がある。また,利用者からすれば証明書などの添付書類などは少ないほど望ましい。

 他方,少し気になるのは,電子政府の推進において,業務改革による行政コストの削減という視点が後回しにされているのではないか…という点である。「電子自治体の推進に関する懇談会」では業務システムの共同化・標準化の推進についての検討を進めているものの,業務改革そのものにまでは踏み込みきれていないようだ。懇談会のWGには「オンライン利用促進」と「セキュリティ」があるが,「業務改革」「簡素化・合理化」といった視点のWGは設置されていない。今回の報告書にある「証明書等のペーパーレス化」についても,一意は利用者が申請する際の利便性向上という視点である。

 現在のような経済状況下では,例えば消費税引き上げ問題なら,「消費税を上げる必要は認めても,まず,行政の改革・効率化によって出て行くお金のコントロールをしないで消費税だけ上げるのでは国民が納得しない」ということになるであろう。同様にオンライン申請においても「複雑怪奇な行政手続きをそのままにして,インセンティブの付与だけ進めても,ますますお金がかかるだけ」という結果になりかねず,そうなっては国民の理解・納得は得られないのでないか。

 利用促進は「さらにお金を使って前に進む」という施策だ。今後は,業務の効率化・合理化(そしてその結果,税金がどのくらい節約できるのか)という視点からの施策提言も期待したい。

安延 申(やすのべ・しん)
フューチャーアーキテクト社長/COO,
スタンフォード日本センター理事
安延申 通商産業省(現 経済産業省)に勤務後,コンサルティング会社ヤス・クリエイトを興す。現在はフューチャーアーキテクト社長/COO,スタンフォード日本センター理事など,政策支援から経営やIT戦略のコンサルティングまで幅広い領域で活動する。