世の中には,ジャンルを問わず,様々な「アワード(賞)」がある。世界レベルならノーベル賞,国家レベルなら国民栄誉賞がまず思い浮かぶだろう。ほかにも,スポーツなら最優秀選手賞(MVP),歌手の世界ならレコード大賞,映画俳優の世界ならアカデミー賞など,挙げればきりがない。これらの賞は偉大な功績をたたえるものだが,それ以上に,同じ世界で頑張っている同業者に「励み」を与えるという大きな意味を持っている。

 企業が社内で設けているアワードにも様々なものがある。個人成績トップの者に贈られる賞もあれば,チームや部門の業績や取り組みに贈られる賞もあるだろう。

 以前このコラムで書いたことがあるが,筆者がサラリーマン時代に所属していた部門には,年間のシステム障害件数が最も少なかったチームに贈られる「障害率ナンバーワン」という賞があって,ご丁寧に小さなチャンピオン・フラッグまで用意していた。高校野球の優勝旗やゴルフコンペのカップと同様,受賞したチームは1年間フラッグを机の上に飾ることができる仕組みで,連覇を達成すると,そのチームの担当課長は鼻高々だったものである。

 しかし最近になって筆者は,こうした華々しい業績に対する評価も結構だけれども,数あるアワードの中で最も価値があるのは,いわゆる「皆勤賞」ではないか,と思うようになった。皆勤賞は,入社してから数年間あるいは十数年間にわたって1度も休まなかった者に贈られる賞だが,いかなる偉業もこれにはかなわないのではないだろうか。

 野球の話で恐縮だが,愛する阪神タイガースの強打者,金本選手はフルイニング出場(1イニングも休まない)記録を伸ばしていて,1999年以来1イニングとして欠場したことがない。捻挫しても骨折しても試合に出てくるし,出てくるだけではなく結果を残す。野球界ではこのほかにも,元ジャイアンツ,現ヤンキースの松井選手が,日米のキャリアを通じて1768という連続出場記録を持っている

 金本選手や松井選手の記録がどれほどすごいかは,同業者なら誰もが分かっている。投手から厳しい球を投げられる強打者という立場にありながら,何年にもわたって休まず出場し続けるということは,怪我に強いだけでなく,毎年安定した成績を残せるという実力の証明でもあるからだ。いっときだけ花開いて消えてしまう選手でも獲れるほかの賞とは重みが全然違う。

 企業における皆勤賞とて同じである。身体も精神も強いことは大前提だが,それ以上に浮き沈みなく,常に安定した成績を残しているからこそできる芸当だからだ。「出勤するだけなら誰にでもできる。問題は中身だろう?」と侮るなかれ。そう思った人は,おそらく1年とて皆勤したことがないはずだ。

 体調不良を理由に1日休むことは実にたやすい。しかし,特にSEの場合は,たとえ1日でも予想外の欠員が出れば,仕事に影響が出ないわけがない。チームとして動いて初めて成果を挙げることができる仕事だからである。

 例えばの話,これからテスト・フェーズに入るという日に,テスト・チームの責任者が風邪でダウンしたら,予定はたちまち狂ってしまう。重要な立場になればなるほど,安易に休むことはできないものだ。逆に言えば,休んでも仕事に影響が出ない要員は,しょせん普段から大した仕事はしていない。つまり,(ここが大事なところなのだが)仕事ができるから皆勤するのであり,その逆もまた然りなのである。

 短期間で華やかな成果を挙げるのも結構。しかし,よりハイレベルなSEを目指すなら,仕事を休まない,いや休むことが許されないSEになることだ。「皆勤賞」とは,どんな華やかな賞にも優る,真の実力を示す勲章なのである。

岩脇 一喜(いわわき かずき)
1961年生まれ。大阪外国語大学英語科卒業後,富士銀行に入行。99年まで在職。在職中は国際金融業務を支援するシステムの開発・保守に従事。現在はフリーの翻訳家・ライター。2004年4月に「SEの処世術」(洋泉社)を上梓。そのほかの著書に「勝ち組SE・負け組SE」(同),「SEは今夜も眠れない」(同)。近著は「それでも素晴らしいSEの世界」(日経BP社)