経済産業省が中小企業IT経営力大賞を新設した。日本経済の基盤を支える中小企業の競争力をIT(情報技術)経営により高めようという取り組みだ。私も委員として審査にかかわった。大企業とは異なる悩みを抱えるCIO(最高情報責任者)が挑んだ、成果の一部を紹介する。

 大賞の1社、東洋ボデー(東京都武蔵村山市)は1956年に設立され、トラック車体を製造している。現社長の長男で執行役員の中条充啓さんは、新卒で東芝に入社。ハードディスクのOEM(相手先ブランドによる生産)営業に携わる。東芝を選んだのは、やがて引き継ぐ父の会社と同じ製造業にこだわったからだ。98年に退社して東洋ボデーに。当時同社は、主要顧客のトラックメーカーからの集中化発注に伴う原価低減の要請を受けており、某社向け完成車体のOEM供給という顧客主導型事業からオーダーメード型の利益率の高い自立商品を主軸とする事業の強化を目指していた。

IT改革で残業代を40%削減

 しかし、この転換で部材の種類が増加。部材/製造リードタイムなど経営サイドには今まで見えていたものまでが見えなくなった。これを解決するために、中条さんが中心になってIT改革を進めた。基幹システムに大掛かりな改修を行い、部材の安定供給を図るための設計データからの直接発注、リードタイムが長い資材の在庫管理の強化、生産量の標準化、生産計画の情報共有をITで実施。その結果、収益性・生産性・効率が向上、売上高に占める残業代は40%削減された。

 中条さんは、ボトルネックを次々と解決するオペレーションの教科書『ザ・ゴール』(エリヤフ ゴールドラット著)を地で行っている感じだ。ITをツールとして使い戦略を実施していく好例だ。

 委員の1人で大賞選定のために現地企業を回った岡田浩一明治大学教授の言葉が印象的だった。「一概に中小企業といっても規模は様々。やはり規模が大きいほうがIT化が進んでいる。大きいからITができたのではなく、大規模になる過程でITを使ったと考えるのが正しいだろう」。中条さんは、東芝という大企業では既に実施していることが中小企業ではできていない悔しさをバネに、改革を実現した。ITがその心を支えた。

石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)氏
ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO
シリコンバレーでコンサルティング会社を経営後、1999年にネットイヤーグループに参画。事業戦略とマーケティングの専門性を生かしネットイヤーグループの成長を支える。日米のベンチャーキャピタルなどに広い人脈を持つ。スタンフォード大学MBA