今月,遅ればせながら我が家で初めてHDDビデオ・レコーダーを購入した。これまで使っていたVHSビデオ・レコーダーと比べて,画質,機能とも極めて満足している。値段も3万円台と安くなっていた。我が家では「ひさびさに満足度の高い買い物をした」と喜んでいる。

 だが,私にとって,たった一つだけ困ったことが起こった。それは,リモコンを使っているのに,テレビにかぶりついて操作しなければならない場合が少なくないのだ。「これでは全然“リモート”コントロールではないな」と少し不満に感じている。原因は,リモコンの操作方法と,私の視力がやや弱いことにある。

 例えば,ある番組を録画予約したい時,HDDビデオ・レコーダーのユーザーならご存知の通り,その録画にタイトルを付けることができる。録画を見るときは非常に便利だが,録画予約をするとき,私はタイトルの文字を編集するのに一苦労する。

 文字を編集するときは,リモコンの特定のボタン(17個)に「変換」や「削除」といった編集機能が一時的に割り当てられ,それらのボタンと画面に表示されるソフトウエア・キーボードを使ってタイトルを編集するようになっている。ボタンと編集機能の対応一覧は,テレビ画面の一番下に“ワンサイズ小さな文字”で表示される。

 ここで,問題が3つ生じる。まず,(1)視力の弱い私には,この“ワンサイズ小さな文字”が非常に読みづらい。仮に読めたとしても,(2)特定のボタンがどこにあるのか探すのが面倒くさい。さらに,(3)テレビ画面とリモコンの間(およそ3メートル)で視線を交互に行き来させなければならないため,意外と目が疲れる。これらが嫌で,結局,テレビのまん前に座りこみ,リモコンを操作するはめになってしまう。

 録画予約に限らず,リモコンのボタンに特別な機能が一時的に割り当てられた設定画面は少なくない。そういう画面で操作に迷うたびに,私は身を乗り出したり,リモコンを持ってテレビの前に移動したりするのだ。文字を大きく表示する方法も調べてみたが,取扱説明書には見当たらなかった。やれやれ,と思う。

 ほかのメーカーの製品はどうなのだろうか。気になったので,家電量販店に行っていくつか展示品を触ってみたが,結果はおおむね同じだった。一つ気付いたことは,テレビのサイズが42型だと3メートル離れても小さな文字まで読めた。32型だと目を細めれば読める程度。我が家にあるのと同じ26型では,やはり読みづらかった。

 普通の視力と大型のテレビを所有している人なら,何でもない話だろう。しかし,似たような経験をしている人はほかにもいるだろうし,少なからずユーザー・インタフェースにも難点があると私は思うのだ。

そろそろボタン以外の操作方法も検討してみては?

 一昔前の話だが,情報システムの画面設計をする際,「家電製品のように誰でも迷いなく使える,シンプルなユーザー・インタフェースを見習うべき」という話をよく聞いた。当時の家電製品の操作は直感的で使いやすかったし,そのよい点を見習うべきという主張もよく理解できた。ただし,「家電製品は機能が単純だから直感的な操作を実現できるのであって,複雑な機能を持つ情報システムの画面設計と同列に語るのはどうかなぁ」と違和感もおぼえた。

 それから何年も経った現在,「家電製品を見習うべき」という話をそれほど聞かない。前述したように,家電製品が高機能化したため,直感的には操作できない機能が増えているからだ。かつて,HDDビデオ・レコーダーが登場し,多機能化が進んだ2002~2003年ごろには,「記者の眼」のコラムでも,「デジタル機器の使い勝手が悪い」「自明の使い勝手を望む」という趣旨の記事がいくつか出ている。多機能化と使い勝手の追いかけっこは,長年続いている。

 ならば,どんなユーザー・インタフェースなら使い勝手が良くなるのだろうか。「1つのボタンに複数の機能を割り当てるから使い勝手が悪くなる」という点に注目するなら,そろそろリモコンの「ボタン」だけに頼るのは限界だと思う。

 例えばの話だが,「マウス(ワイヤレス)」を併用してみてはどうだろう。あらゆる家電製品で利用できるわけではないが,テレビにつなぐ機器になら応用できる。パソコンのようなコマンド・メニューと組み合わせれば,機能を整理して,使いやすく,見やすく提供できるだろう。冒頭の例で言えば,スタート・ボタンをクリックして録画予約ダイアログを起動し,タイトルの文字編集を右クリックのメニューなどで行う,といった具合だ。マウス操作なら画面から目を離さずに済むので,視線をリモコンとの間で移動させる疲れもない。

 「裏返すとテレビのリモコンになるマウス」というユニークな製品もある。文字通り,マウスとテレビのリモコンが表裏で一体になっている。こんなリモコン兼マウスがあれば,普段はリモコン,ちょっと難しい設定をするときだけマウス,という使い分けができそうだ。スティック型やトラックボール型のポインティング・デバイスをリモコンに搭載しても面白いかもしれない。

 多機能な製品には,それに見合ったユーザー・インタフェースを用意する必要がある。これからテレビにインターネット接続機能やブラウザの搭載が進むとするなら,今度は家電製品がパソコンのユーザー・インタフェースを参考にしてもいいと思う。