クレイトン・クリステンセン氏がベストセラー『イノベーションのジレンマ』を著したのは1997年。「成功した企業は顧客の要望に耳を傾けるがために,後から到来する破壊的なイノベーションに乗り遅れ,次の世代では敗者になる」という論旨は,10年経過した今も有効である。任天堂のゲーム機「Wii」が新しい遊び方を提案して初心者層の開拓に成功し,ソニー・コンピュータエンタテインメントの牙城を崩した例が典型だ。

 では,自社が破壊的イノベーションを起こすにはどうすればよいのか。著者たちは3つの原則を守れと説く。(1)既存の製品・サービスを過剰と感じる顧客,または利用しない顧客に注目する,(2)「必要十分」が大きな価値を持ち得ることを理解する,(3)競合他社には魅力がないことを実行する,である。

 3つの原則は出版社に所属する記者にとって身近な書籍を例に当てはめても納得できた。例えばケータイ小説は,(1)一般の文芸書が難解と感じる顧客に,(2)等身大の話題かつ必要十分なボリュームが評価され,大ヒットした。一方,(3)文芸書を読み込んでいる顧客からの評価は概して低い。文芸書を多数手がける出版社は発売しにくい商品だったといった具合だ。

イノベーションへの解 実践編

イノベーションへの解 実践編
クレイトン・クリステンセン(序文)/スコット・アンソニー/マーク・ジョンソン/ジョセフ・シンフィールド/エリザベス・アルトマン著
栗原 潔訳
翔泳社発行
2100円(税込)