帝人の野口泰稔・帝人グループ常務執行役員CIO

 国内の上場企業の半数以上がIT担当役員を置いているが、文字通り「CIO(チーフ・インフォメーション・オフィサー=最高情報責任者)」という肩書きを持つ役員がいる日本企業は1割に満たない。そんな中で、帝人は正式にCIO職を置くばかりでなく、CIO直轄のIT企画部門を「CIOスタッフ室」と呼称している。

 2007年4月にCIOに就任した野口泰稔常務は、「以前のCIOとCIOスタッフ室の業務のカバー範囲はどちらかというと分社前の旧帝人の枠組みに収まっていた。現在は買収した企業も含めて160社を超す帝人グループ全体に活動領域を広げているところ」と語る。CIOスタッフ室の人数も野口氏の就任前までの8人から15人に増やした。グループ全体のITインフラをどう発展させていくか、ITガバナンスはどうするか、散在するアプリケーションをどこまで統一していくか、といったIT戦略を練っている。

 野口CIOがCIOスタッフ室のメンバーに求める人材像は、「ITの知識を持つ社内コンサルタント」だ。普段からメンバーに対して、「IT関連業務だけで一生を終えようと考えないでほしい。グループ内のいろんな業務を経験し、将来のマネジメントの一翼を担うようになってくれ。IT的な発想を自分の軸としながら、業務改革プロジェクトを率いることができ、リスク感覚も備え、人間的な魅力も磨いてほしい」と呼びかけている。野口CIO自身も、経理業務を担当する機会が多かったとはいえ、国内外の様々な業種の企業や事業部門を渡り歩いてきた。

 こうした野口CIOの信念は、CIOスタッフ室のメンバーを増やした際も徹底された。増員は社内公募制度と中途採用を併用して実現したが、ITのエキスパートではなく、企業の利用部門での業務経験が豊富であり、かつ、ITプロジェクトなどに関与したこともある人材を採用した。

 室長と一般職の女性を除いたCIOスタッフ室の13人のメンバーのうち、IT関連業務の経験が長くITの技術動向に詳しい人は3人にとどまる。「理想の構成はCIOスタッフ室の3割がITに詳しい人材で、残る7割はIT以外の何らかの業務を軸に持っている人材。両者が連携してこそ、グループ内のいろんな利用部門に行ってITを使った業務改革を効率よく実践できる」と野口CIOは見る。

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・自分の考えをストレートフォワードに表現すること。もし大きな間違いや失敗をしたときは早めに報告しスムーズに状況転換を図ることを自らの行動原則にしています

◆ITベンダーに対して強く要望したいこと
・ITベンダーの皆様とは、いわばビジネス戦場における「戦友」とも言うべき関係を築けたら素晴らしいと考えています。ワンタイムトランザンクションだけの乾いた関係ではなく、プロジェクト終了後に「達成感、成功感、メンバーの成長感覚」を共有できて、双方の関係者が極めて強固な信頼感で結びついている、それが新しい優れたプロジェクトを生み出す原動力になる好循環を生み出せたら理想的だと思います。そのためには、双方のプロジェクトリーダーの人間力が鍵になるのでしょうね

◆最近読んだお勧めの本
・『資本主義は嫌いですか―それでもマネーは世界を動かす』(竹森俊平著、日本経済新聞出版社)
 最近の金融危機・経済危機を理解する一助になります

◆普段読んでいる新聞・雑誌・インターネットサイト
・ 日本経済新聞
・ 日経産業新聞
・ 日刊工業新聞
・ 月刊誌CIO
・ 日経BPのサイト「経営とIT」など

◆ストレス解消法
・ストレスに立ち向かう第1の条件は、まず肉体的な健康を保つことです。加えて、身体を動かす気楽な趣味(例:ゴルフ、犬との散歩)を持つことでしょうか