ビジネスとITの摩訶不思議な世界を“創発号”に乗って旅する匠Style研究所。第2回では、システム開発における要求の本質をより深く探求していきます。みなさん、「考える頭」「柔軟な考え」「楽しむ心」などを忘れ物しないようにしてくださいね。あっ、そうそうみなさんが持っている「常識」は、とりあえず駅のコインロッカーに締まっておきましょう。創発号、いよいよ出発です。

 僕は「要求」という言葉が不思議でとらえどころがないものだと思っています。本当にシステム開発を行う上で、要求をとらえることが始まりなのだろうか?と。「何がしたい」という“What”は、だれ(Who)が持っているだろうか?と。

 そもそも要求というと、だれかがだれかに依頼することになるでしょう。普通に考えれば、ユーザーがシステム開発担当者に要求するということになるでしょうね。しかし、このことが多くの誤解を招いているように思うのです。結果的にうまくいかないビジネスを作りだしているとも思えるのです。

 僕は若いころ経理担当者でした。その頃、大型コンピュータの導入があり、僕が一番若かったために、僕が担当することになりました。その際、システムエンジニア(SE)からは、「現在はとりあえず、○○社向けのシステムを導入しています。これから御社向けにシステムを合わせていきますので、経理業務としての要求を出してください」と言われました。

 僕は悩みました。僕の知っている経理業務という仕事の、どこを要求として出せばよいのかと。これは嘘みたいなホントの話です。つまり当時の僕は、コンピュータが何をもたらすのか全く分からずにいたため、システム化するためにどの部分を要求として出せばよいのかが、分からなかったのです。

システム要求はユーザーが出すものか?

 コンピュータは、人間の仕事を肩代わりする道具です。例えてみれば、人の手足をロボット(コンピュータ)化したサイボーグとなって、仕事をしているようなものです。

 さて、もしみなさんが事故にあって、手足や胴体を大きく損傷したとしましょう。そして未来の医学では、サイボーグ化による治療が確立されています。そこで、お医者さんがこう言ったら、みなさんならどうしますか?「これからあなたの体をサボーグ化します。これによって、あなたは最高のビジネスをこなすサイボーグになることでしょう。さあ、どこをロボット化しましょうか?手ですか?足ですか?それとも脳ですか?どこにしたらよいのか教えてください」

 もちろんあなたは、日常生活や仕事に支障をきたす、事故によって痛んでしまった部分だけを機械で補ってほしいと思っているわけで、上記のような医者には頼みたくないと思うのではありませんか?

 かなり話が飛躍しました(笑)。しかし、このようなことが、システム開発の現場では実際に起こっているのです。この話で例えると、患者がユーザー、医者がシステム開発者になります。

図1●システム要求は、業務要求の“How”
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 さて、ここで第1回でも示した図1を見てください。システムに対する要求は、業務に対する要求の“How”になっています。つまり、業務要求の実現がシステム要求であるために、その要求の抽出にはシステム開発者が不可欠になります。ところが、システム開発者は、「要求はユーザーから出てくるもの」という姿勢でいることが多く、そのために「要求をください」という先ほどの医者の姿勢と同じになってしまうのです。