既に大手メーカーが関係を持つなど、当初から不利な状況だった。400項目の要件を理解するため、ユーザー企業を質問攻め。プレゼン前の根回しなどにより、新規顧客の獲得に挑んだ

 シーネットの営業担当部長である菅原共生は、年始のあいさつ回りでまだ付き合いのなかったナガセ物流を訪れた。2005年1月のことだ。シーネットの小野崎伸彦社長がナガセ物流の関係者から、「ナガセ物流が業務システムの刷新を検討しているようだ」との情報を得ていたからだ()。

表●ナガセ物流がシーネットに発注するまでの経緯
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表●ナガセ物流がシーネットに発注するまでの経緯

 ナガセ物流は化成品や合成樹脂などを扱う商社である長瀬産業の100%子会社。倉庫/配送業務を手掛けている。同社の既存システムは、約10年前にオフコンで構築したもの。オフコンメーカーのサポート期限が切れ、システム再構築は差し迫った課題だった。

 ナガセ物流は、菅原の訪問で初めてシーネットの物流業務パッケージ「CX-Himalayas」のことを知った。後日、ナガセ物流の酒井良治社長と管理部次長の島村周三は菅原に製品デモを実施させた。

 CX-Himalayasの導入企業を訪問して利用現場を見学して酒井は「実用に耐え得る」と判断。シーネットを委託先候補に加えることにした。

1日3回の頻度でユーザーに質問

 2005年2月25日、ナガセ物流はコンペに参加させるITベンダーを一堂に集めた。RFPに関して説明するためだ。

 出席したITベンダーは4社。シーネットのほか、事前のコンサルティングで新システムの基本構想を取りまとめた大手メーカーのA社、従来システムを構築・運用していた大手メーカー系SIerのB社、物流業務システム向けパッケージを開発するC社だった。

 説明会に出席したシーネットの菅原は、RFPを見て頭を抱えた。400項目に及ぶ新システムの機能要件が、一覧表にビッシリと記載されていたからだ。「A社やB社のように現行の業務や現行システムに詳しいベンダーならともかく、新規参入の我々には不明な部分が少なくない」。

 従来システムに関連した要件は、現行機能で275項目、周辺システムとの連携機能で51項目。理解できない用語も見つかった。さらに定義があいまいな要件として、荷物を長期保管する「不動在庫」の状況を管理する機能があったという。「不動」の期間や条件が明記されておらず、「ナガセ物流に確認しないと、提案書を作れない」と菅原は焦った。

 ナガセ物流は、RFPの公開日から2週間、ベンダー各社の質問を受け付けていた。「先行するA社とB社に追いつくには、この2週間が勝負」。菅原は気を引き締め、2人の開発担当者と休日返上でRFPを読み込んだ。

 3人はほぼすべての要件について質問した。「ナガセ物流の担当者に多少しつこいと思われようと構わない」。菅原はメールやFAX、電話を使って朝昼晩の1日3回、ナガセ物流に問い合わせた。ベンダー各社の質問の回数は、「シーネットとC社が突出していた」と島村は言う。できるだけ良い提案を引き出すため、島村は質問の一つひとつへ丁寧に回答した。