「独占禁止法」は,企業の自由な競争を阻害する様々な行為を禁止している。商品の購入者に別の商品を強制的に購入させる「抱き合わせ販売」は,一例だ。どんな行為が独禁法違反となるのかを解説する。

 大阪市に本店を置くゲームソフト卸売会社の藤田屋が,人気ゲームソフト「ドラゴンクエストIV」の卸売りに際し,「従来の取引実績に基づいて割り当てる本数以上の購入を望む小売業者には,在庫中の他のゲームソフト3本を購入するごとに1本を販売する」と,310店の取引先小売業者に通知した。

 同社が小売業者25店に対してドラクエと他のゲームソフトの抱き合わせ販売を行った時点で,公正取引委員会(公取委)が調査を開始。調査を受けて同社は抱き合わせ販売を中止したが,公取委は(1)抱き合わせ販売の中止を小売店に周知徹底すること,(2)今後は抱き合わせ販売を行わないことを命じる審決(排除措置命令)を下した(公取委1992年2月28日勧告審決 審決集38巻41頁)。

 台湾の公正取引委員会が米Microsoftに対する調査を開始。主な調査対象は「Windows Vista」(2008年8月)。欧州連合(EU)の執行機関,欧州委員会(EC)が米Intelに対し,同社が欧州競争法に違反したとするECの予備的見解を示す異議声明を送付(2008年7月)---。IT業界でも,独占禁止法に関連するニュースはよく耳にする。そこで今回は,独占禁止法について,解説することにしよう。

企業間の公正な競争を促進

図1●独占禁止法における「私的独占」と「不当な取引制限」の定義
図1●独占禁止法における「私的独占」と「不当な取引制限」の定義

 独占禁止法は,企業の公正で自由な競争を促進するために「私的独占」,「不当な取引制限」,「不公正な取引方法」という3つの反競争的行為を禁止している。

 「私的独占」とは,1社が不当な手段で市場支配力を獲得したり維持する行為のことだ(図1)。また「不当な取引制限」とは,複数の同業者が競争を制限する協定を結ぶことである(これをカルテルと呼ぶ)。

 私的独占や不当な取引制限が行われると,特定の企業が市場を支配し,市場における競争がなくなってしまう。これらの行為を未然に防止するために禁止しているのが「不公正な取引方法」である。

 具体的にどのような取引方法が「不公正な取引方法」に当たるのかは,公取委が指定している。表1に,すべての業界に共通に適用される禁止行為(一般指定)を示した。このほか,特定の業界のみに適用される禁止行為(特殊指定)もある。

表1●不公正な取引方法(すべての業界に適用される一般指定)
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表1●不公正な取引方法(すべての業界に適用される一般指定)

 公取委は,独占禁止法に違反した企業に対し,違反行為の中止などの措置を命ずることができ(これを「排除措置命令」と呼ぶ),価格カルテルや談合に対しては課徴金納付命令を発することができる。また,違反行為の被害者は,違反企業に対し,損害賠償や違反行為の差し止めを請求することができる。

 独占禁止法違反は,刑事罰の対象にもなる。例えば,不当な取引制限(カルテル)を行った企業は,3年以下の懲役または500万円以下の罰金に処せられ,排除措置命令に従わなかった企業は,2年以下の懲役または300万円以下の罰金に処せられる。

選択の自由を奪う抱き合わせ

 表1に示した「不公正な取引方法」の中で,特にIT業界でよく見られるのが,ソフトの「抱き合わせ販売」である。抱き合わせ販売とは,ある商品について有力な地位を占める企業が,その商品の購入者に別の商品の購入を強制する行為のことだ。ただし,単品での購入が選択可能な「セット販売」は,抱き合わせ販売とはみなされない。

 ソフトの抱き合わせ販売が公取委に摘発された事件としては,98年のマイクロソフト事件がある。この事件は,マイクロソフトによる「Excel」と「Word」の抱き合わせ販売に対し,公取委が排除措置命令を出したものだ(公取委1998年12月14日勧告審決 審決集45巻153頁)。冒頭の事件でも,藤田屋の行為が「抱き合わせ販売」に該当するとされた。

 抱き合わせ販売は,顧客が望まない商品の購入を強制するものであり,顧客の商品選択の自由を奪う。また,有力な商品と抱き合わされる商品の競合企業にとっても,自由で公正な競争が阻害されることになる。

 こうした理由から,日本のみならず欧米諸国の独占禁止法でも,抱き合わせ販売は違法行為として禁止されている。

辛島 睦 弁護士
1939年生まれ。61年東京大学法学部卒業。65年弁護士登録。74年から日本アイ・ビー・エムで社内弁護士として勤務。94年から99年まで同社法務・知的所有権担当取締役。現在は森・濱田松本法律事務所に所属。法とコンピュータ学会理事