「編集長が大胆予測 2009年はこうなる」では,11人中5人が昨年後半からの急速な景気の悪化に触れている。中でも,トヨタ自動車が年末に発表した赤字見通しは衝撃的かつ象徴的だった。

 21世紀に入ってからの同社の営業利益の推移をグラフにしてみると,発表された落ち込みがいかにすさまじいものであるかが分かる()。2009年にIT業界でどのようなトレンドが生まれるにせよ,この不況を無視したものはあり得ない。

図●トヨタ自動車の営業利益(連結)推移
[画像のクリックで拡大表示]

 トヨタ自動車のすごさは,何と言っても2兆円を超える営業利益。そして,それを支える“トヨタ流”“トヨタ式”と呼ばれる「現場力」「改善」の手法である。製造メーカーだけでなく,IT系の企業や情報システム部門も,その手法に熱い視線を注いでいた。

 日経BP社が発行するIT系の雑誌も,このトレンドをとらえ,多くの関連記事を掲載してきた。「トヨタ」に関連した記事を数えてみると,2000年以降,毎年コンスタントに100本以上を掲載してきた。“トヨタ流”“トヨタ式”の秘密を探り,いかにシステム開発・運用の現場に取り入れるか。その結果,どのような効果を上げているかという観点での記事が多い。

【参考記事】
20年来のトヨタ流に京セラ流融合,業界トップの棚卸資産効率を実現
トヨタ流で宴会業務の改善プロジェクト進める
装置産業でも“1個生産”!?,トヨタ流改革で在庫4分の1に
トヨタ流改革をシステムが下支え,生産量倍増でも,在庫25%削減
親会社依存脱却に向け3PL強化,トヨタ流で6億円のコスト削減
トヨタ流改善提案で6億円の合併シナジー 「維新伝心プロジェクト」が改善キャンペーンを展開

 この“2兆円の営業利益”が崩れてしまった今,IT業界にとって“トヨタ流”“トヨタ式”の意味合いはどうなるのだろう。その採用に取り組んできたシステム開発・運用の現場は,このニュースをどう受け止めているのか。今のような不況下で必要なのはトヨタが培ってきた“改善”ではなく,やはり“改革”であるとして,いったん取り組みを凍結するのだろうか。それとも,不況のような外部要因と手法は別物だとして,切り離して考えるのだろうか。

 ITproでは,昨年暮れと今年の冒頭にわたり,特集「仕事の見える化 現場の改善」を掲載した。2007年4月に日経SYSTEMSが掲載した特集を転載したものだ。グラフで分かるように,ちょうどトヨタ自動車が絶頂にあった時期である。トヨタの手法をいかにIT業界に持ち込めるかというのが,記事の骨格である。

 少々古い記事ではあるが,先行きが不透明な今こそ,このような記事が必要とされるだろうと昨年秋に考えて決めた(冒頭の編集長らも「今のようなときこそ基本に帰れ」といったメッセージを発している)。この時点では正直,トヨタ自動車がここまで崩れるとは予測できなかった。結果として,何とも間の悪いタイミングでの公開となってしまったかもしれない。

 だが,ここでは逆に考えたい。今,システム開発・運用の現場では何ができるのか。これまで目指してきた方向をさらに推し進めるべきなのか。全く違う方向を目指すべきなのか。そうしたことを考える材料として,前述の特集を「今」読んでいただきたいのである。