システムの寿命は自社の事業戦略に合わせて決めるもの。だが、税制上の減価償却期間やハード/ソフトの保守期間といった外部要因で決まっているのが実情だ。
ハード/ソフトを提供するベンダーが保守サービスを長期間提供し続けるようになればユーザー企業は苦心せずにすむ。
だがベンダーが変わる兆しはない。「保守サポート期間の延長は製品価格を2~3倍に上げないと採算がとれない」と異口同音に主張する。
結局、ベンダーの論理に振り回されないためには、ユーザー企業が自己防衛するしかない。
10年前のPCを保管
東京都多摩市にあるJTBグループの情報システム会社、JTB情報システム。同社の会議室には年季の入ったパソコン約50台がところ狭しと積み上げられている(図6)。リサイクル業者が来るまで一時的に保管しているわけではない。いつでも現場に配備できるよう待機させているのだ。
これらのパソコンは1998年製造の日本IBM製品。OSとしては今はなき「OS/2 Warp」が組み込んであり、電源を入れると10年前に開発した国内団体パッケージ旅行向けシステムのクライアントソフトが起動する。
団体から個人へ―。この10年でJTBを取り巻く環境は大きく変わった。顧客が旅程や宿泊地を自由に決める手配旅行が台頭。かつての主力商品である国内団体パッケージ旅行の市場規模はピーク時の数十分の一に縮少した。
国内団体パッケージ旅行の売り上げが全体の数%にまで落ち込むと、数億円かけてシステムを再構築するのは割に合わない。そう考えたJTBは2004年に基幹系を刷新する際、その対象から同システムを外した。可能な限り現行システムを使い続けることにした。
クライアントソフトを動かすパソコンやOSの保守サポート切れは覚悟の上だ。「OS/2はある程度枯れているので新たな不具合が発覚する可能性は低い」とJTB情報システムの野々垣典男執行役員グループIT推進室室長は判断した。OS/2用のウイルス対策ソフトはすでに入手できないが、意に介さない。「外部のネットワークとは接続していないし、OS/2をねらったウイルスも最近は聞かない」。
だがパソコンが故障したとき、補修部品が入手できず修理できないのは困る。そこでJTBは04年の基幹系刷新に併せて営業拠点に配備していたOS/2 Warpパソコンの大部分を撤去した際、本来は廃棄するパソコンの中から程度の良いものを選別し予備機として保管することにした。
「パソコンは腐らない。会議室で保管するだけなら、コストは実質ゼロ」と野々垣執行役員は強調する。