株価の大幅下落と急速な円高を受けて逆風が吹き荒れる日本経済。企業は生き残りを賭けてコスト削減を急ぐ。

 IT予算も例外ではない。

 「ムダなITコストは1円でも削れ」。こうした号令が各所で飛ぶなか、多くのシステム部門が槍玉に挙げるムダがある。ハードやソフトの保守サポート切れが原因で、まだ使えるシステムを破棄したり、再構築するのにかかるコストだ。緊縮予算下、使えるシステムはできるだけ長く使いたいのに、ユーザーの意向ではどうにもならない実態がそこにはある。

 まずは不満の声を紹介しよう。

証言1 利用開始3年で保守切れ

 「たった3年でなぜ使えなくなるんだ」。ミシン製造大手JUKIの松本進情報企画部長は思わず声を荒げた。外資系メーカーの営業が保守サポート期間の終了を理由にパソコンサーバーの買い替えを提案してきたときのことだ。

 このサーバーは買い替え提案の3年前、SAP製ERP(統合基幹業務システム)で基幹系を刷新したのに併せて利用を始めたもの。JUKIの認識では使い始めて3年しか経っていないが、実際にはその2年前からメーカーが開発マシンとして使っていた。このためメーカーが決めた5年の保守サポート期間が2006年3月に終了した。

 保守サポート期間が終わると、メーカーは壊れても修理しない。交換部品の供給も保証しない。JUKIは再リースと保守サポートの延長を持ちかけたが、メーカーは受け入れなかった。

 保守切れのまま使い続けることも考えた。しかし「基幹系の管理用サーバーではさすがにリスクが大きい」。仕方なく1000万円弱を投じてサーバー6台を買い換えた。

 計画外の出費を迫られた松本部長は今でも納得がいかない様子だ。「メーカーが一方的に寿命を宣告するなんて、IT業界以外では通用しない」。

証言2 バージョンアップに巨費

 ユーザー企業の不満の矛先はソフトにも向かう。

 「5年しか使っていないのに、パッケージのサポート期限が切れた」。北海道ガスの倉品義文業務高度化推進部長は、2003年に営業拠点に導入したシーベル・システムズ(現オラクル)製CRM(顧客関係管理)ソフト「Siebel CRM 6」の“賞味期限”の短さを嘆く。

 Siebel CRM 6の保守サポート期間は昨年12月で終了した。北海道ガスはオラクルとサポート契約を結んでいるので、最新版のライセンス自体は追加費用なしで入手できる。

 だがバージョンアップのための作業費は北海道ガス持ちだ。独自に開発した数十種類のアドオンが最新版で動作するよう検証・修正するのにかかるコストを含めると、見積もりは軽く1億円を超えた。

 これは当初の導入費用の半分に相当する金額。「ここでバージョンアップをしても、5年後に同じ負担を迫られる」。こう判断した北海道ガスは今年10月、営業支援システムをスクラッチで開発し直す検討を始めた。