携帯電話の販売不振で苦境にあえぐ日本の端末メーカー。海外ではほとんど活躍できていない現状では,国内市場の縮小とともに事業が立ち行かなくなる恐れがある。クレディ・スイス証券 株式調査部 ディレクターの早川仁氏は,「撤退や事業の統合で端末メーカーの数は2010年頃に半減する」と予測する。

(聞き手は榊原 康=日経コミュニケーション


早川氏の眼
携帯電話の契約数 2009年度は2%強の純増
端末の販売台数 2009年度は4000万台前後
端末メーカーの動向 2010年頃には半減
2009年に注目の事業者 ソフトバンクモバイル
その理由 公表通りの業績を出せるか

携帯電話の契約数は今後どの程度伸びると見ているか。

 まだ増えるのは間違いない。2009年度は2%強の純増を予想している。その後も2年程度は2%弱の純増を見込んでいる。子供や高齢者など携帯電話を持っていない層がまだ残っていることに加え,データ通信カード,スマートフォンによる2台目需要も期待できる。

端末の販売台数が落ち込んでいるが,2009年以降はどうなりそうか。

 割賦販売の導入で年間の販売台数は2割減ると予想していたが,ここまで急速に減るとは想定していなかった。やはり割賦販売の導入で端末価格の見た目が上昇した影響が大きい。基本料や通話料がその分値下げされているのでトータルの支払額は変わらないが,5万円や6万円の端末価格ではユーザーが引いてしまう。これに景気後退の影響も重なり,端末の買い替えサイクルが全体的に長期化している。2008年度は4000万台を切る/切らないくらいの水準と見ている。

 ただ,2008年度は割賦販売の影響がたまたま早く出ただけで,2009年度以降は横ばいと見ている。結局のところ,携帯電話は消耗品。当面は4000万台プラスマイナス100万台前後の水準が続くだろう。2009年度は買い替えが多少戻るのではないか。

販売台数の減少で端末メーカーは厳しい状況に直面している。国内の端末メーカーは何社生き残れると見ているか。

 日本の端末メーカーには「携帯電話端末の事業から撤退すると,家電メーカーあるいは総合電機メーカーとして重要なピースを失い,将来に影響が出る」という脅迫観念がある。採算性が多少悪くなっても続けるのは間違いない。

 とはいえ,市場規模が年間4000万台に縮小する前提で考えると,現状の体制は続かないだろう。そもそも2009年度はメーカー全体の見通しが厳しいなかで,株式市場は赤字事業に対して寛容ではない。端末の共同開発や部材の共同調達,外部への製造委託が今後増えていく。その上で撤退や事業の統合により,端末メーカーの数は2010年頃に半減すると見ている。確かに撤退は決断しづらいのだが,何らかの形で関与できれば事業の継続にこだわる必要もない。

3.9G(第3.9世代携帯電話)はNTTドコモの大チャンス

2009年に注目する携帯電話事業者は。

クレディ・スイス証券 株式調査部 ディレクター 早川仁氏
クレディ・スイス証券 株式調査部 ディレクター 早川仁氏
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 あえて挙げるとすれば,ソフトバンクモバイル。特に業績面を注目しており,2008年度の中間決算で公表した数字をどこまで達成できるか。あとは割賦販売の支払い期間が満了するユーザーが本格的に増えるのでどう対処するのか,iPhone 3Gのような端末をどれだけ出せるのか,といった点も興味深い。

 NTTドコモは「新ドコモ宣言」で守りに入ったが,この戦略は正しいと思う。3.9G(第3世代携帯電話)を導入するまでの間にau(KDDI)やソフトバンクモバイルと殴り合いの戦いをしても仕方ない。しかも新規ユーザーはそれほど残っていないので,既存ユーザーの流出防止に注力するのは正解だ。個人的には,3.9Gで攻勢に出てくると見ている。

 NTTドコモが3.9Gを他社に先駆けて提供するメリットは大きい。業界の2番手や3番手が最大手の後追いをしても勝負にならない。特にKDDIはNTTドコモと同じ土俵で戦ってどうするのか。ソフトバンクはヤフーやゲームといった上位レイヤーのコンテンツを多く抱えているが,KDDIにはこうした差異化の要素が見当たらない。3.9Gの商用サービスを開始する2010~2011年は,NTTドコモにとって大チャンスと言える。

2009年は米グーグルのAndroid端末が日本でも登場する。どう見ているか。

 グーグルがAndroidでどのようなビジネスを展開するのかは分からないが,携帯電話事業者にとって怖い存在になるのは間違いない。仮にグーグルが「広告収入があるので端末で利益を出さなくていい」と判断した場合は現状のビジネスに大きな影響を及ぼす。

 ただ,Android端末が主流となるかどうかは未知数。端末の価格が安くても売れるとは限らず,デザインを含めた総合力の競争になる。2008年10月に米国で発売されたAndroid端末「T-Mobile G1」は「まだ使えるレベルにない」といった声も出ており,現状は改善の余地が大きい。この問題は時間が解決すると思われるが,ブランド・イメージを含め,海外メーカーの端末が国内でなかなか売れない日本市場の特殊性もある。評価の見極めはまだできていない。