米アップルのiPhone 3Gや米グーグルのAndroid端末をはじめ,「オープン・プラットフォーム」を売りにした端末が増えている。2009年はこの傾向がさらに強まりそうだ。だが,UBS証券 株式調査部 シニアアナリスト マネージング ディレクター,UBSインベストメント・リサーチの乾牧夫氏は,「日本ではそう簡単には売れない」と明言する。

(聞き手は榊原 康=日経コミュニケーション


乾氏の眼
携帯電話の契約数 伸びるのは間違いない
端末の販売台数 2009年度は4500万台程度
端末メーカーの動向 事業統合はあっても撤退は疑問
2009年に注目の事業者 au(KDDI)
その理由 KCP+の完成で巻き返しに期待

携帯電話の契約数は今後どの程度伸びると見ているか。

 まだ伸びるのは間違いない。法人向けを中心に2台目需要も高まっている。日本の携帯電話の人口普及率は80%台前半で,世界で40位前後。G7の主要7カ国はおろか,OECD(経済協力開発機構)の30カ国,発展途上国にも抜かれている。人口普及率が100%を超えている国は20カ国以上もあり,日本が100%程度まで伸びても不思議ではない。その一方で,米国の人口普及率も日本と同じレベルにとどまっており,正直,結論は出ていない。

 ただ,いずれにせよ,携帯電話事業者の立場で考えると,2台目需要はそれほど重要ではない。ユーザーが携帯電話を2台持っても,MOU(1契約当たりの月間平均通話時間)が分散するだけで,ユーザーの支払いの合計金額が大幅に増えるわけではないからだ。それでも基本料の分だけ収入は増えるが,基本料の水準は各社とも下がっている。やはり新規ビジネスの創出が重要になる。

端末の販売台数が落ち込んでいるが,2009年以降はどうなりそうか。

 まず2008年度は4000万台を下回ることはない。上期(2008年4月~9月)の不振が続くと4000万台を下回る可能性もあるが,下期から機種変更が増えると見ている。理由は二つある。一つは,ソフトバンクモバイルが割賦販売を始めてから2年が経過すること。2年間の支払い期間を満了した割賦1期生が機種変更を始める。機種変更をする・しないは別として,その自由を得る。この影響はゼロではない。

 もう一つは,NTTドコモが2G(第2世代携帯電話)の巻き取りを本格的に開始する。これから2年間かけて数百万(2008年12月末時点で約666万)のユーザーに端末の買い替えを促していく。加えて端末販売は元々,下期で盛り上がる。2008年度の販売台数は4500万台程度と見ている。

 2009年度もこの傾向は変わらず,4500万台程度と予測している。ソフトバンクモバイルは割賦2期生,3期生と続き,NTTドコモも2Gの巻き取りが継続する。携帯電話の純増数もまだ伸びている。2008年度の販売台数から大幅に減ることはない。割賦の導入で2年未満の買い替え層がいなくなる影響は最初の2年間だけ。2008年度の販売台数は2007年度の5000万台以上から4500万台に一気に減るわけだが,それ以降は4500万台前後で安定すると見ている。

KDDIの端末プラットフォーム「KCP+」の存在は大きい

販売台数の落ち込みで端末メーカーは厳しい状況に直面している。国内の端末メーカーは何社程度生き残れそうか。

UBS証券 株式調査部 シニアアナリスト マネージングディレクター,UBSインベストメント・リサーチ 乾牧夫氏
UBS証券 株式調査部 シニアアナリスト マネージングディレクター,UBSインベストメント・リサーチ 乾牧夫氏
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 端末メーカーは確かに厳しく,現に減っている。だが,日本の端末メーカーは家電メーカーや総合電機メーカーが中心で,携帯電話端末が本業ではない。しかも携帯電話端末で利益を出しているメーカーが元々少ない。利益が出なくて撤退するのであれば,とっくに減っていなければおかしい。

 ただし,カシオ計算機と日立製作所のような事業統合はあり得る。カシオ日立モバイルコミュニケーションズの場合,それぞれが別ブランドで展開しており,型番の抹消には至っていない。こうした事業統合はあっても,完全な撤退があるかどうかは疑問だ。

 一方,2008年11月に日本市場からの撤退を発表(関連記事)したノキアはインフラも一部で手がけているが,携帯電話端末が本業である。端末事業の不調は深刻な問題で,日本の総合電機メーカーとは目障り度合いが全く違う。ノキアは元々,日本市場で売れていなかったこともあり,今後見込みのない日本市場でわざわざ頑張る意味がない。