Q 事務系の女性社員Aさん(30歳)は,仕事のやり方が雑なだけでなく,男性社員の気を引こうとばかりしています。話をしても内容がなく感情表現も大げさなため,「気が散って仕事にならない」と多くの社員が不快に感じています。こういう女性には,どう対処すればいいでしょうか。(35歳,男,SE)

 Aさんのような女性に,職場の同僚としてなにか忠告するのは難しいかもしれません。しかし,職場を快適にしたり仕事の生産性を上げるためには,誰かがAさんと話し合う必要があるでしょう。

 職場の同僚が不快な感情を抱くということは,ひょっとしたらAさんは「演技性人格障害」なのかもしれません。こういう人には表のような特徴があります。表に示した特徴のうち5つ以上が当てはまれば,演技性人格障害の可能性が高いと言えます。

 なぜこういう性格傾向になるのかは,本人に聞いてみなければ分かりませんが,一般的には生育史の中で自分の存在を認めてもらうことがなかったか,あるいは少なかったことが原因とされています。

 他人と比較されたり,差別されたりして育ってきたために「見放されたくない」,「疎外感を持ちたくない」,「認めてもらいたい」といった思いが強く生まれ,その結果「よく見られたい願望」や「周囲に対してアピールしたい衝動」が身に付いているのです。自分が注目の的にならないときは,相手や周囲の悪口を言ったり,攻撃して自分を正当化するケースもよく見られます。

 Aさんが演技性人格障害の場合,本人には,誰がどのように忠告すればいいのでしょうか。

演技性人格障害の特徴

 話し合う人は,Aさんが信頼できる上司や先輩がふさわしいでしょう。また,演技性人格障害の傾向が強い人はプライドが高く周囲の反応も気にしやすいために,話し合いは秘密が漏れないような会議室や喫茶店で行うべきです。

 話し合いに際しては,まずはAさん自身の長所を認めて,褒めてあげることが重要です。こういうタイプの人は,暗示にかかりやすく周囲からの影響を受けやすいため,信頼している人からの褒め言葉は受け入れやすいものです。

 そのうえで,直して欲しいことを伝えてください。ただし,相手の欠点や問題点をただ指摘するのではなく「私はAさんにこうなって欲しい」,「私は,Aさんが○○してくれたらうれしい」のように,「自分を主語にした表現」を使うことをお勧めします。

 話し合いの最中に,何かを強く訴えてきたり,気持ちや感情を全面に出してきた場合には,否定したり言い返したりせずに,あるがままに受け止め理解するよう努めてください。とはいえ,実際にはかなりの困難を伴います。

 特に,Aさんがネガティブな感情を話し相手に対して抱いている場合には,限界があります。そういう時には会社の産業保健スタッフに,対応方法を相談してみてください。

武藤 清栄
東京メンタルヘルスアカデミー所長
1974年東洋大学社会学部卒,76年国立公衆衛生院(現国立保健医療科学院)衛生教育学科卒。民間相談機関の「心とからだの相談センター」主任カウンセラー,サンシャイン医学教育研究所,秋元病院精神科カウンセラーを経て,現在に至る。著書に「人の話を聞ける人聞けない人」(KKベストセラーズ)など