Q 会議や集団での発言がとても苦手で悩んでいます。上司からは「自分の思っていることを素直に表現すればいい」と言われるのですが,「恥をかいてしまうのではないか」,「ばかにされるのではないか」という気持ちが強く働きます。小さい頃から初めて会う人との人間関係も苦手でした。(29才,男性,SE)

 ITエンジニアは,人前で話をするのが苦手な人が多いようです。たいていは,会議やプレゼンテーションなどの経験を積むことで克服していくものですが,中には質問者のように,いつまでたっても克服できない人もいるようです。

 そうした人は,「回避性パーソナリティ障害」の可能性も考えられます。これは「引きこもり」の特性の1つとも言われており,人間関係の抑圧や抑制,ぎこちなさ,否定的評価に対する過敏性,などが特徴とされています(図1)。

図1●回避性パーソナリティ障害のチェックリスト。4つ以上あてはまると,回避性パーソナリティ障害の可能性が高い
図1●回避性パーソナリティ障害のチェックリスト。4つ以上あてはまると,回避性パーソナリティ障害の可能性が高い

 筆者のもとにも,回避性パーソナリティ障害と考えられるエンジニアがよくカウンセリングに来ます。

 その1人であるSさん(男性27才)は,3人兄弟の真ん中でした。話を聞くと,長男は勉強もでき両親の期待を一身に受けて自信を持って生きているタイプ,妹は明るくかわいらしいタイプで父親から特に気に入られていたそうです。

 しかしSさんは幼い頃から勉強もできなければ,運動神経も鈍く目立たない存在でした。両親からは「お前は何をやってもダメだね,家の手伝いはやってくれるけど」といったセリフをよく聞かされたそうです。

 20歳を過ぎて,昔の幼馴染みと喫茶店などで会っても「ダメなイメージ」を持たれているのではないかと思い,ついつい自己表現に抑制がかかったといいます。いつも聞き役に回り,作り笑いをして周りに合わせてばかり。ある時からSさんはそんな自分が嫌になり,会合に誘われても断ることが多くなりました。仕事の面でも,質問者と同じように,会議や打ち合わせの席で発言できずに悩んでいました。

 回避性パーソナリティ障害者のカウンセリングでは,抑圧や抑制の原因となっている過去の出来事や人間関係をまず明らかにし,その時本当はどうしたかったのか,どう言いたかったのかを表現してもらいます。

 大切なことは,抑圧せざるを得なかった状況を,まず自分で十分に理解することです。そうでなければ変容(受け入れて変わること)は生まれません。その後は,ロールプレイで会議の席や初対面の人と会う状況を設定し,自己表現ができるように練習してもらいます。

 回避性パーソナリティ障害者の疑いがある人は,一度カウンセリングを受けてみることをお勧めします。

武藤 清栄
東京メンタルヘルスアカデミー所長
1974年東洋大学社会学部卒,76年国立公衆衛生院(現国立保健医療科学院)衛生教育学科卒。民間相談機関の「心とからだの相談センター」主任カウンセラー,サンシャイン医学教育研究所,秋元病院精神科カウンセラーを経て,現在に至る。著書に「人の話を聞ける人聞けない人」(KKベストセラーズ)など