Q 私は,SEとしてあるソフト会社に中途採用されました。早く新しい会社に馴染もうと張り切っていたのですが,3日もたたないうちに,「そんなことも分からないのか」,「レベルが低いなぁ」,などと先輩や同僚につぶやかれ,やる気をなくし転職したことを後悔しています。(28歳,女性,SE)

 メンタルヘルス不全者やストレスを強く感じる人は,新卒者よりも中途採用者に多いことが分かっています。会社や職場の期待に応えられなかったり,職場の人間関係に馴染めなかったりして,ショックを受けることが多いからです。

 特に,ヘッドハンティングされたエンジニアの場合はなおさらです。新しい会社の上司や人事スタッフは,そのエンジニアに大きな期待を持っているだけに,それに見合う活躍ができなければ,即座にネガティブな反応が返ってきます。そのことに耐えられなくなったり自分を責めたりして,居場所を失ってしまうことが多いのです。

 質問者のように,転職した会社で上司や同僚から「予想したよりもレベルが低いな」という目で見られると,仕事を頼まれたり上司から呼ばれたりするだけでオドオドしてぎこちなくなったり,緊張したりしてしまいます。それがまた上司や同僚には不快に感じられてしまうのです。こうなると悪循環です。

 しかし試験や面接を経て採用されたわけですから,周りの人とレベルは大差ないはず。そこで,自分から壁を作らないようにしながら,素直に次のように言ってみてください。「私は○○さんの期待に応えられるように仕事をしたいのですが,現状ではなかなかうまくいきません。慣れるまで時間をいただいていいですか」。部下の本音が素直に伝われば,上司も素直に受け止めてくれはずです。

 職場で緊張せずに,リラックスすることもとても重要です。筆者のもとに,こうした悩みを持つ人がカウンセリングに来た場合,筆者が上司役を演じるロールプレイングを実施するのですが,その際にぎこちなさや緊張が見られる人は多いものです。こうした人には,「自律訓練法」の練習をしてもらっています。

 自律訓練法には様々なやり方やいくつかのテーマがありますが,その1つである「重感」は,次のような方法で行います。

 まず目をつぶって職場をイメージします。その後,自分の体に注意を向けて,どこに力が入っているのかを感じます。その感覚をしっかり確かめたら,その部分にわざと力を入れてみます。これをしばらく続けていると,緊張で体が震える状態になります。そうなったら今度は力を抜きます。これが「弛緩状態」です。その後,力の抜けた状態をしばらく味わいます。

 次に,その状態で楽な姿勢で座り,軽く目を閉じて,普段通り普通に呼吸をします。そして右腕に注意を向け,「右腕が重たーい,右腕が重たーい,右腕が重たーい」と3回つぶやきます。つぶやきながら,「あーそんな気がするな」と感じたら,「気持ちがとても落ち着いている,気持ちがとても落ち着いている」と言い聞かせ,その気分に浸ります。右腕が終わったら,今度は左腕に,さらに右足,左足に移っていきます。このように,手足から力を抜いてリラックスできると,「体の重さ」を感じることができるようになります。これは「セルフコントロール」の1つです。質問者にも,この練習をぜひお勧めします。

武藤 清栄
東京メンタルヘルスアカデミー所長
1974年東洋大学社会学部卒,76年国立公衆衛生院(現国立保健医療科学院)衛生教育学科卒。民間相談機関の「心とからだの相談センター」主任カウンセラー,サンシャイン医学教育研究所,秋元病院精神科カウンセラーを経て,現在に至る。著書に「人の話を聞ける人聞けない人」(KKベストセラーズ)など