東京証券取引所 IT開発部arrowheadシステム部長 宇治 浩明
arrowhead担当マネージャー 川井 洋毅

 注文の処理スピードを100倍以上に速める――。東京証券取引所が300億円を投じて開発を進める次世代システム「arrowhead」の最大の狙いだ。併せて99.999%の稼働率と注文の増加に応じて1週間以内に処理容量を増強できる拡張性を確保する。もちろんアプリケーションの品質も高めシステム障害を削減する。

 証券取引の世界では、できるだけ有利な条件で売買を成立させるため、コンピュータで自動売買する「アルゴリズム取引」を導入する取引参加者(証券会社など)が増えている。これら参加者は100分の1秒、1000分の1秒でも早い注文処理を取引所に求める。

 世界規模で企業のM&A(合併・買収)が進む時代。取引所も例外ではない。2007年には米ニューヨーク証券取引所が欧州のユーロネクストを買収した。東証が生き残るには、世界の取引参加者のニーズを満たすシステムの整備が不可欠だった。

 しかし、現行のシステムでは先進的な取引参加者の様々なニーズに応えていくのは難しい。例えば注文処理にかかる時間は1.5~2.5秒前後。海外の取引所の100倍近くかかっている。メインのデータセンターが被災すると取引業務が止まってしまう。システム障害により取引を停止するといった事態があるなど、万全とは言えなかった。

 これらの問題を解決するには、市場インフラの提供者としてシステムの発注力強化への取り組みが不可欠と判断した。例えばベンダー選定では、要求を具体的に明記してベンダーに提案を求めなければならない。要件定義書は業務の視点だけでなく非機能要件までより詳細に記述する必要がある。進捗や品質管理についても強化すべき点があると考えた。

 今は、発注力を磨きつつ複数の新規プロジェクトを遂行しているところだ。その象徴がarrowheadの構築プロジェクトである(図1)。

図1●東証が構築中の取引システムの全体像と次世代システム「arrowhead」の位置付け
図1●東証が構築中の取引システムの全体像と次世代システム「arrowhead」の位置付け
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