「ストレージ・サービス」や「オンライン・ストレージ」というキーワードを見たり聞いたりしたことはないでしょうか。インターネットでこれらのキーワードを検索すると,個人向けサービスだけでなく,企業向けのサービスもあることが分かります。サービス内容は多様で,情報を保管するだけのサービスから,アクセス管理機能などを付加した高機能型サービスもあります。

 こうしたオープンなサービスを企業の基幹システムで利用しているケースは少ないと思われますが,企業内またはグループ企業内で利用するグローズドなストレージ・サービスは増えています。具体的には,システムごとにストレージ環境を構築するのではなく,大・中規模のSANおよびNASのストレージ基盤を構築し,企業の重要な営業系システムや会計システムの情報を保管するストレージ・サービスです(以下では,このサービスを企業内ストレージ・サービスと呼ぶ)。

企業内ストレージ・サービスの目的と効果

 企業内ストレージ・サービスは,個々の業務システムが個別にストレージを調達して利用するケースと比較し,どのようなメリットを享受または期待できるかを以下に挙げました。

  • 1.ビジネス要求に即座に対応できる
  • 2.ストレージ・レイヤーの高度な設計や構築が可能となる
  • 3.ストレージの品質向上が期待できる
  • 4.ストレージの利用コスト削減が期待できる

1.ビジネス要求に即座に対応できる

 あらかじめ決められたストレージのサービス・メニューを基に,個々の業務システムと契約することになります。提供するサービスはメニュー化され確立された手法であり,サービス開始時点で検証済みなので,ユーザーは利用したいサービス・メニューを選択するだけで済みます。一般的には,「ストレージ容量」と「納期」などを要求するだけになります。

 サービス・メニューとして幾つかの種類を準備しておくことで,サービスの差異化が可能になります。差異化は,性能やデータの保護レベル(ミラー,RAID),バックアップ・リカバリ(筐体内,テープ),災害対策といった観点で考えると整理しやすいでしょう。

 企業内ストレージ・サービスの目的は,企業のビジネス変化に即座に対応することです。つまり,ストレージを水道や電気と同じように利用できる状況にしておくことが重要なミッションとなります。

2.ストレージ・レイヤーの高度な設計,構築が可能となる

 近年のストレージ装置はインテリジェンスな機能を装備していますので,その機能をどのように使えば効果的なのか,といったことを考える必要があります。相応のスキルが要求されますが,ストレージ・サービスを提供すれば必然的に担当組織が構成され,ストレージに特化したスキル,コンピテンシーが確立されます。

 ストレージに特化したスキルを持つ要員は,ストレージの設計からバックアップ,災害対策などの部分を担当することになります。個々のシステムの担当者はそれらを考えなくてもよくなるだけでなく,個々に構築する場合よりも高度な設計が可能となります。ストレージ・ベンダーに対しても,的確な提案要求を求めることもできるでしょう。

 ストレージ・サービス提供者は,要求ごとに一から設計しなくてもよいように,ストレージ基盤の構築時にサービス・メニューと設計ポリシーを策定しておきます。そうすれば,多様なストレージ構成が複雑に入り組むといった状況を回避できます。