意図が伝わらない設計書には,情報の不足,余計な内容,表現のミスがある。こうした問題を解決するための現場の対策を紹介する。取り組みはそれぞれ異なる。だが,意図を伝えたいという思いは共通だ。

 「情報の不足,余計な内容,表現のミス。意図が伝わらない設計書によくあるのはこの三つだ」。こう指摘するのは,日立製作所の石川貞裕氏(プロジェクトマネジメント統括推進本部 担当本部長)。石川氏は「現場ではこうした点を改善するための対策が必要だ」と強調する。では,設計書には具体的にどのような不備がよく見られるのか。最初にこの点を明らかにしておこう。

 まず情報が不足している設計書。図1左の画面レイアウトがその例だ。画面の構造を視覚的に示し,操作したときの動きを個条書きで示している点はよい。だが,型やけた数といった画面項目に関する重要な情報がない。富士通の廣瀬守克氏(SI生産革新統括部 担当部長)は「特に画面を操作したときのイベントに関する情報が不足しがちだ」と指摘する。画面と機能との関係が希薄になり,間違った動きとして認識されてしまう恐れがある。

図1●情報の不足,余計な内容,表現のミス
図1●情報の不足,余計な内容,表現のミス
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 図1中央に示したのは,書きたいことを詰め込みすぎて,余計な内容が入り込んでいる設計書である。データ項目定義書には本来,システムでどんなデータを扱うかを記述すればよい。ところがここに,画面との対応や運用に関する内容が書き込まれている。TISの田淵秀氏(技術本部 基盤技術センター エキスパート)は「無用な内容はゴミに等しい。どの設計書にどんな情報を記述すべきかをきちんと理解することが大切だ」と注意を促す。

 図1右は,表現にミスがある設計書。ユースケース図に記述されている「動詞」が同じ意味なのに,異なる表現で記述されている。日本語として誤りとまでは言えないが「このような表現のミスは,読み手を迷わせる」(テクノロジックアート 社長 長瀬嘉秀氏)。迷ってくれればまだよいが,迷わず違う機能として実装されてしまうと,バグとして残ってしまう。

 ここで挙げた例は,ダメな設計書のほんの一部である。このほかにも情報の不足や余計な内容,表現のミスに起因する設計書はいくつもある。次回からは,こうした問題を解決するための現場の対策を見ていこう。