2008年に注目を集めたキーワードとして真っ先にイメージするのが「クラウド・コンピューティング」である。ITproでも,Webサイトのニュースや解説といった記事でクラウド・コンピューティングに関する話題を数多く取り上げてきた。それ以外にも,ITpro EXPO 2008 Autumnに合わせて発行した紙媒体のITpro Magazine Vol.2で「クラウド,台頭!」という特集記事を掲載するなど,2008年はクラウド・コンピューティングがブレイクした年と言ってもいいだろう。この傾向は2009年も続くのだろうか。筆者はそうは思わない。2009年はクラウド・コンピューティングを取り上げる記事はむしろ減ると考えている。

 その理由の1つは,「クラウド・コンピューティングがバズワードである」という認識が広まってきたこと。バズワードとは,定義が不明確のまま広く使われる単語を指す言葉で,いろいろな人が自分の都合のいい解釈で使うことが多い。結果として,言葉の意味合いがあやふやになりがちで,聞き飽きるにつれて使われなくなることが多い。もちろん,そのまま定番の言葉として定着することもあるが,2008年後半の露出度を考えると人々が飽きるのも早いと思われる。

 もう1つは,クラウド・コンピューティングが広く使われるようになるまでに,まだ時間がかかるのではないかと感じていること。聞き飽きる前にメインストリームとして定着すれば,そのまま定番の言葉として使われていくだろう。だが,現時点で聞こえてくるクラウド・コンピューティングの利用形態は,あくまで企業システムのごく一部で利用するというものが大半。全社で導入するという企業はほとんどなく,あったとしても中小規模の企業がせいぜいという状況である。

 クラウド・コンピューティングのブームに対抗するために,米Microsoftが「Windows Azure」というクラウド向けOSを発表し,「Azure Service Platform」としてクラウド・コンピューティング環境を提供していくことを発表したのは記憶に新しい。だが,これらの実際の提供時期としているのは2010年とまだ来年のこと。Microsoftが“本気”でクラウド・コンピューティングに今すぐにでも対抗すべきと考えているならば,Microsoftの体力からするともっと早く提供できるはず。Microsoftも,おそらく今年はクラウド・コンピューティングが本格化しないと判断しているのだろう。

 では,クラウド・コンピューティングが廃れていくかというと,そういうことではない。

 筆者の印象では,現在のクラウド・コンピューティングの状況は,10年ちょっと前にあったJavaのブームとイメージが重なる。1995年にJavaが登場してNetscape NavigatorやInternet ExplorerなどのWebブラウザで採用されるようになると,インターネットの広まりに合わせてあたかも「今後はすべてがJavaを使ったものに置き換わる」かのような報道が相次いだ。だが,実際にはそのような状況にはならなかったし,ニュースにもあまり露出しなくなった。とはいえ,Javaが使われなくなったかというとそういうことはなく,サーバー側の開発環境としてはむしろ標準といっていいほど普及している。

 「クラウド・コンピューティング」という言葉は,記事では徐々に使われなくなっていくかもしれない。だが,「企業のIT業務をインターネット上のサービスで処理させる」というクラウド・コンピューティング的な流れがなくなるということはないだろう。場合によっては,新しいキーワードもまじえながら,どのようなポジションに定着していくのかに注目していきたい。