皆さんは週に何時間会議をしているだろうか?毎回,時間に見合った成果はあっただろうか?目的が不明確でゴールがどこか分からないまま,声の大きい人の意見に引っ張られ,決まったことを渋々実行する(ときには実行しない)・・・。そんなことはないだろうか?

 企業をとりまく社会情勢の変化は非常に速くなっており,問題解決も,より早く確実に実施することが求められている。そんな中で着目されているのが,会議やチーム活動の成果を最大にすることを助ける「ファシリテータ」である。

 ファシリテータとは,

議論に中立の立場で,議論のプロセスにかかわり,チームの成果が最大になるように議論を促進する人

のことだ。

 議論するのはあくまで会議やチームのメンバーで,ファシリテータは主に議論のプロセスにかかわる。メンバーから求められない限り,自ら意見を言うことはしない。積極的に意見を言ったりまとめたりするリーダーとは異なる役割である。実際,ファシリテータが第三者であることも珍しくなく,むしろ第三者のほうが議論を中立の立場で進められる。とはいえ,チームリーダーにとっても,チームの成果が最大になるよう議論を促進できるファシリテータのスキルは,大きな武器になる。

 ファシリテータは,チーム活動や会議のほか,町内会などの地域活動や集合研修など,複数の人が協業するさまざまな場面で必要になる。さらに,日常生活でのちょっとした打ち合わせや相談でも,ファシリテータのスキルを活用できる。そこで今回は,日常生活の中で,ファシリテータとして振る舞うためのコツを解説しよう。会議をうまく仕切る実際のテクニックについては,次回(第9回)に解説したい。

 メンバーが問題を議論し,合意に至るまでのプロセスにおけるファシリテータの役割は大きく4つある。

(1)議論するための場をつくる
(2)参加者から意見を引き出す
(3)意見をかみ合わせ,整理する
(4)意見をまとめる

 以下では,この4つの役割ごとに,ケーススタディに沿ってファシリテータとして振る舞うためのコツを解説していこう。

ファシリテータの役割(1) 議論するための場をつくる

 今回のケーススタディは,あけぼの産業の基幹システム再構築プロジェクトのリーダーとして奮闘する山田さとし情報システム室主任の私生活での一シーンである。

 月曜の夜。山田が帰宅すると,友人の石川からメールが届いていた。

   年末の連休で旅に行きませんか?たまには顔も見たいし,
   日曜10:00にファミリーレストラン○○で相談しよう。
   希望の行き先を考えておいて下さい!

 宛先は山田を含めて4人。皆,大学時代からの友人で,現在は別々の会社に務めている。山田を除く3人からの参加の返信も既に入っており,山田も参加のメールを返した。

 日曜の朝。山田は久しぶりの再会を楽しみにしながら,集合場所へ向かった。テーブルには,既に4人の友人が座っており,早くも行き先についての議論が始まっていた。

石川:「せっかくの連休だし,海外行こうよ」
斉藤:「久しぶりに,スキーもいいんじゃない?」
石川:「海外スキーと言えばカナダとかは?」
近藤:「南の島なんかいいかも」
河合:「どれも予算オーバーだよ・・・」
山田:「ちょっと待って。日程は?会社の休日違うよね,他にも予定あるだろうし。日程によっては行けないところもあるよね」

 久しぶりに集まって盛り上がってはいるが,それぞれ違う前提で話しており,話す内容がかみ合っていない。このままでは決まらないと考えた山田は,ファシリテータ役を買って出ることにした・・・。